■ ニュース概要
2025年10月末、ヤマトホールディングス(HD)は2025年4〜9月期の連結決算を発表しました。経常損益は37億円の赤字となりましたが、前年同期の136億円の赤字から大幅に改善しています。
宅配便の価格改定や法人契約の見直し、国際事業の回復が主因とされており、2025年4月に施行された「トラック新法」への対応を含めた収益構造の見直しが奏功した形です。
■ 背景と業界動向
ヤマトHDの業績改善の背景には、物流業界全体が直面している構造的な課題と、それに対する戦略的な対応があります。
● トラック新法の影響
2025年4月に施行されたトラック新法では、ドライバーの時間外労働が年間960時間までに制限されました。これにより、宅配業界は人員配置の見直しや運行効率の改善を迫られています。ヤマトHDはこの法改正を見越して、法人契約の再構築や単価の見直しを早期に進めており、他社に先駆けた対応が業績改善につながりました。
● 価格改定の効果
宅配便の単価引き上げは、収益性の向上に直結しています。特に法人向け契約では、荷主との交渉を通じて適正な運賃体系への移行が進み、従来の「薄利多配」モデルから「持続可能な価格設定」への転換が図られました。
● 国際事業の回復
アジア・欧州間の輸送需要が回復し、国際物流部門は増収増益となりました。越境ECや航空貨物の取り扱いが拡大しており、国内市場の伸び悩みを補う形で収益改善に貢献しています。
■ 業績の詳細
- 経常損益:▲37億円(前年同期:▲136億円)
- 国際事業:増収増益
- 宅配便単価:前年同期比で上昇傾向
- 荷主契約:再構築が進行中
このように、複数の施策が複合的に機能した結果、赤字幅の大幅な縮小が実現されました。
■ 業界へのインパクト
ヤマトHDの取り組みは、宅配業界全体に波及する可能性があります。
● 宅配便の価格適正化が進展
これまで価格競争が激しかった宅配業界において、ヤマトHDの価格改定は「安さ」から「持続可能性」への転換を促す動きといえます。他社も同様の方針を取ることで、業界全体の収益構造が健全化する可能性があります。
● 国際事業の強化が鍵に
国内市場の成長が鈍化する中、越境ECやグローバル物流の強化は今後の成長ドライバーとなります。ヤマトHDの国際事業の回復は、他の物流企業にとっても重要な示唆となるでしょう。
● トラック新法対応のモデルケース
ヤマトHDの対応は、他の運送・宅配事業者にとって参考となる事例です。特に契約見直しや単価調整の進め方は、今後の業界標準となる可能性があります。
■ 現場で注目すべきポイント
荷主との契約見直しの必要性
トラック新法対応には、拘束時間や荷役条件の明文化が不可欠です。契約書の見直しを通じて、現場の負担軽減と法令遵守を両立させる必要があります。単価交渉の強化
運賃の適正化は、収益改善の第一歩です。荷主との交渉力を高め、価格だけでなくサービス品質や対応力を評価軸に加えることが重要です。国際物流の可能性検討
越境ECや航空貨物など、新たな収益源の探索が求められます。国内偏重の事業構造から脱却し、グローバル展開を視野に入れるべきです。
■ 今後の展望
物流業界は今後、以下のような変化が予想されます。
宅配業界の再編加速
労働環境の改善と収益性の確保を両立するため、事業統合や提携が進む可能性があります。特に中小事業者にとっては、協業や共同配送の選択肢が現実味を帯びてきます。GX・DX対応の強化
CO₂削減やデジタル化対応は、荷主からの評価軸として定着しつつあります。物流企業は環境性能やデータ連携力を競争力の一部として捉える必要があります。荷主の意識変化
荷主企業は「安さ」よりも「安全・確実・持続可能性」を重視する傾向が強まっており、物流パートナー選定基準が大きく変化しています。
■ まとめ
ヤマトHDの赤字幅縮小は、価格改定と国際事業の回復による収益構造の見直しが奏功した結果です。トラック新法施行後の宅配業界では、持続可能な運賃体系と契約条件の整備が急務となっており、今後はGX・DX対応を含めた総合的な物流戦略が求められます。ヤマトHDの事例は、業界全体にとっての転換点を示すものといえるでしょう。