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【義理人情DX】関西物流に根付く商慣習とDXの壁 〜「のれん」と「義理人情」が生み出す強みと限界〜

🧭 はじめに|DXが進まないのは技術の問題ではない

物流DX(デジタルトランスフォーメーション)は、国の成長戦略でも重要テーマとして掲げられています。
AI・IoT・自動倉庫・遠隔操作フォークリフトなど、技術革新の話題は尽きません。

しかし、現場を取材していると「技術よりも人間関係が壁になっている」と感じることが少なくありません。
特に関西圏では、問屋を中心とした“のれん商売”や“義理人情取引”が今も物流構造を支配しており、
これがDXの進展を遅らせる要因となっています。

この記事では、関西物流に根付く独特の商慣習と、その中で生まれるDX推進の壁について深掘りしていきます。


■ 関西に根付く「のれん商売」とは何か

● のれん商売の本質

「のれん商売」とは、長年の信頼関係(のれん)を基盤に継続取引を行う慣習を指します。
契約書よりも“人と人のつながり”を重視し、過去の取引実績や相互の義理を大切にする文化です。

「あそこの問屋には昔から世話になってるから」
「新しい取引先より、顔のわかるところで」

このような言葉が、今も現場で聞かれるのが関西物流の特徴です。

● 歴史的背景

江戸時代の大坂は「天下の台所」と呼ばれ、商人文化が栄えました。
米や薬、繊維、金物といった商品を扱う問屋が集まり、商人同士の信用で取引を行っていたのです。
この「信用第一」の考え方が現代にも引き継がれ、
契約より信用、数字より関係性 という価値観が根付きました。

そのため、物流・卸売の分野でも「取引先を替えない」「他社の価格を競わない」という
“関西商人ののれん文化”が色濃く残っているのです。


■ 問屋を介した流通構造が生む安定と停滞

● メーカー直取引が進まない理由

関西では、メーカーが小売・末端事業者と直接取引を行うケースが少なく、
依然として問屋を介した流通構造が主流です。

理由は単純で、信頼と調整のクッションとして問屋が機能しているからです。

  • 価格交渉や納期調整を円滑にしてくれる
  • トラブル時に間に立ってくれる
  • 長年の実績で安心感がある

こうした理由から、企業にとって問屋は“取引の潤滑油”として欠かせない存在でした。
しかしその一方で、情報の透明化やデータ共有が進みにくく、
サプライチェーン全体の効率化が遅れる要因にもなっています。


■ 「義理人情取引」がDXの壁になる理由

● DXは“データ”で動く、しかし現場は“人情”で動く

DXとは「データを軸に業務を最適化する」ことです。
一方、関西の物流現場では今も「情」「経験」「勘」で判断する文化が根強く残っています。

たとえばこんな場面が象徴的です。

  • 新しいWMS(倉庫管理システム)を導入したが、使うのは古参社員だけが拒否
  • AIによる運行計画よりも、“いつものルート”を優先
  • データ共有を嫌がり、FAXや電話が現役

この背景にあるのが、「人との関係を壊したくない」「信用を失いたくない」という義理人情の発想です。
効率よりも“和を重んじる”文化が、DXにブレーキをかけています。


■ 現場インタビューから見る関西物流の実情

現場で話を聞くと、次のような声が多く聞かれます。

「データで判断できても、取引先の顔が立たんかったら意味がない」
「AIに任せたら便利なんは分かるけど、うちは“お得意さん”優先や」
「新システムよりも、電話一本の方が早い時もある」

これらは単なる保守的な意見ではなく、
地域社会の中で築かれてきた信頼構造の延長線上にあります。
したがって、単に「デジタル化を進めよう」と訴えるだけでは効果が薄く、
人間関係の設計(リレーションデザイン)から変える必要があるのです。


■ DXと相反する「のれん構造」の三つの特徴

  1. 暗黙知の共有による属人化
    → ベテラン社員の勘と経験で動くため、システム移行が困難。

  2. 形式より情理を重んじる商談文化
    → 契約やデータよりも、直接会って話すことを重視。

  3. 取引変更に対する心理的抵抗
    → 長年の関係を断つことが「裏切り」に感じられる。

これらの特徴は、短期的には信頼を生みますが、
長期的にはデータ連携・標準化・システム統合を阻む要因になります。


■ DX推進のための“関西流アプローチ”

① 「敵」ではなく「共創相手」としてDXを語る

「システム導入=人を置き換える」という誤解をなくすことが第一歩です。
“人が働きやすくなるDX”として伝えることで、現場の理解が進みます。

例:「AIに任せる」ではなく「AIと一緒に判断する」

② のれんを「データの信頼」に置き換える

従来の「人の信用」を、「データの信頼性」へシフトさせます。
取引履歴・納品実績・KPI達成率などを共有することで、
新しい形の“のれん”を構築できます。

③ 現場ヒアリングを重ねながら段階的導入

一気に全拠点をデジタル化すると反発が大きくなります。
倉庫単位・エリア単位での小規模実証から始め、成功事例を共有していくことが重要です。


■ 「義理人情DX」という考え方

DXの本質は「人を中心に据えたデジタル活用」です。
つまり、“義理人情”そのものを否定する必要はありません。

むしろ、その関係性を可視化し、共有できる仕組みに変えていくことが重要です。

たとえば: - 過去取引データを信頼スコアとして共有
- 問屋とメーカーの協業をクラウド上で可視化
- 長年の協力関係をKPIやインセンティブに反映

これこそ、「義理人情DX」=関係性をデータで再定義する物流改革の方向性です。


■ 西日本物流の未来と再構築の鍵

関西の物流は、のれん文化によって守られてきた安定性と引き換えに、
デジタル対応の遅れという課題を抱えています。

しかし、裏を返せば、信頼関係のネットワークが強固だからこそ、DXの浸透力も高いのです。

信頼の上にDXをのせることで、
「人の温かさ × データの正確さ」というハイブリッド型の物流モデルが実現します。


■ まとめ|文化を壊さず、文化を進化させる

DXの最大の敵は“古い文化”ではなく、“文化を変えないまま使おうとする思考”です。
関西の商慣習は、非効率に見えても多くの現場を支えてきました。

だからこそ、その文化を否定するのではなく、
次世代型ののれん取引=デジタル信頼取引へ進化させることが、
これからの関西物流に求められるのです。