――思い切った一歩、だが構造転換にはまだ足りない
はじめに|「物流2024年問題」の次の局面へ
2025年12月25日、政府は2026年度予算案を閣議決定しました。
その中で国土交通省・物流・自動車局関係予算として打ち出されたのが、「物流の効率化」82億7500万円という、前年度比3.5倍の大幅増額です。
数字だけを見れば、これは間違いなく「本気度が上がった」と言ってよい規模です。
しかし一方で、物流現場を長年見てきた立場からすると、「踏み込みとしては評価できるが、構造改革としてはまだ物足りない」というのが正直な印象でもあります。
本稿では、この予算の評価できる点と同時に、見過ごせない懸念点を整理し、日本の物流が本当に変わるのかを深掘りしていきます。
1|82億円の中身をどう評価するか
● 量的評価:予算規模は確実に前進
- 2026年度当初予算:25億4500万円
- 2025年度補正予算:57億3000万円
- 合計:82億7500万円(当初比3.5倍)
これまで「物流は重要」と言いながら、予算面では後回しにされてきた分野に、明確な財源が投下された点は高く評価できます。
特に、以下の3点は方向性として妥当です。
- モーダルシフトの強化
- ダブル連結トラックを含む幹線輸送改革
- 商慣行是正と荷主行動の変容促進
いずれも、ドライバー不足を“根性論”で乗り切れないことを前提にした施策であり、ようやく政策が現実を直視し始めた印象があります。
2|「物流ネットワーク再構築」3100万円+10億円の意味
● 補正予算頼みの構造に注意
「日本全体の物流ネットワークの再構築の推進」では、
- 当初予算:3100万円
- 補正予算:10億3000万円
という、極端に補正予算へ依存した構成になっています。
ここで支援される内容は、
- モーダルシフト
- ダブル連結トラックによる共同輸配送
- 中継輸送
- 新幹線等の貨客混載
と、いずれも“点ではなく線と面”を作る取り組みです。
問題は、
👉 これらは単年度・実証型では成立しない
という点です。
中継拠点、ダブル連結の運行ルール、荷主間調整――
いずれも最低でも5〜10年単位の政策継続性がなければ、現場は動きません。
「補正で一気に積んだ」という評価と同時に、
来年度以降も本当に続くのかという疑念は残ります。
3|「商慣行の見直し」7.7倍は本当に効くのか
● 規制強化は歓迎、だが執行力が鍵
「商慣行の見直し」では、
- 合計:5億2800万円
- 前年度比:7.7倍
と、かなり思い切った増額です。
主な用途は、
- 荷待ち・荷役時間短縮に向けた規制執行体制整備
- 改正物流法(2026年4月全面施行)対応
- トラック適正化2法に向けた許可更新制度設計
- 「適正原価」設定のための実態調査
方向性は正しい。
しかし、ここで最大の懸念は「調査で終わらないか」という点です。
現場で起きている問題は、
- 荷主優位の契約構造
- 「待たせ得」を前提とした商慣行
- 運賃に反映されない付帯作業
これらは制度があっても執行されなければ何も変わらない。
規制を作るより難しいのは、
👉 違反した荷主・事業者に本当に是正を迫れるか
という部分です。
4|「荷主・消費者の行動変容」42倍のインパクト
● もっとも野心的、かつ難易度が高い分野
このメニューは、
- 合計:8億4500万円
- 前年度比:42.3倍
と、今回の予算で最もインパクトのある伸びを示しています。
内容は、
- 物流統括管理者主導のデータ可視化・共有
- 複数荷主・物流事業者間の連携
- 物流コストに応じた価格設定
- 物量平準化
- 置き配・再配達削減の事業者連携支援
まさに、
「物流は社会全体で支えるインフラ」
という思想が色濃く出た施策です。
ただし、最大の壁はここです。
消費者は、本当に行動を変えるのか?
送料無料、即日配送、再配達当たり前――
この価値観を変えるには、補助金ではなく“覚悟ある制度設計”が必要です。
5|倉庫税制拡充は評価、だが条件付き
税制改正で示された、
- 倉庫税制の拡充・延長
- 対象をトラックターミナル・物流不動産へ拡大
- 中継輸送機能を持つ物流拠点を支援
これは、数少ない「現場が歓迎する施策」です。
特に、
- 地方公共団体の関与
- 公共性の確保
を条件にしている点は評価できます。
ただし、
👉 民間単独では使いにくい制度になる可能性
も否定できません。
本当に必要なのは、
- 民間が投資判断できる予見性
- 物流拠点が“点在”ではなく“連結”される設計
税制だけでなく、都市計画・高速道路政策との連動が不可欠です。
6|総合評価|「本気だが、まだ足りない」
今回の物流効率化予算は、
- 方向性:◎
- 規模感:○
- 構造改革度:△
という評価になります。
評価できるのは、
「ドライバー不足を前提に政策を組み直し始めた」点です。
一方で懸念は明確です。
- 補正予算頼みの不安定さ
- 実証止まりのリスク
- 規制の“作りっぱなし”
- 消費者負担を避けた曖昧な設計
物流は、
変えなければ回らない段階にすでに入っています。
今回の82億円は、
👉 「号砲」ではあるが「決定打」ではない
次に問われるのは、
2027年、2028年も同じ覚悟で続けられるかです。
物流は単年度で結果が出る政策ではありません。
だからこそ、ここからが本当のスタートです。