2026年1月1日、日本物流団体連合会(物流連)の長澤仁志会長が年頭所感を発表しました。 国際情勢の不安定化やサイバー攻撃の脅威が常態化するなか、長澤会長が示したのは「物流が単なる現場作業から、設計・計画を含む『高度な産業』へと深化している」という極めて前向きなメッセージです。
しかし、その「深化」の陰で、現場が置き去りにされていないか? CLO(物流統括管理者)の視点と、物流現場のリアリティを融合させ、称賛と批判のハイブリッドで斬ります。
🧭 第1章|【称賛】物流を「コスト」から「戦略」へ引き上げた功績
今回の所感で最も共感すべきは、物流が経済安全保障や国土強靭化を支える「主役」であると明確に再定義した点です。
● 「2024年問題」を乗り越えた実力の正体
長澤氏は、懸念されていた輸送能力の大幅低下が生じていないと分析しています。 これは単なる「運が良かった」のではなく、荷主が計画段階から関与し、モーダルシフトや輸送効率化を「自分事」として進めた成果であると高く評価しています。物流を「安く買い叩く作業」ではなく「共に設計する産業」へと深化させた点は、業界全体が誇るべき変化です。
● サイバー・リカバリー対応への警鐘
頻発するサイバー攻撃を防災と同等の重点課題と位置づけ、「回復力」の重要性を説いた点は非常に先見性があります。物流が止まれば経済が止まる。そのリスク管理を業界横断で取り組む姿勢は、大手連合体である物流連ならではの視点です。
⚠️ 第2章|【批判】現場感覚と乖離した「チャンス」という言葉の危うさ
一方で、経営層の言葉には、現場の悲鳴を吸い上げきれていない「楽観視」も透けて見えます。
● 「輸送力不足は生じていない」の裏側にある現実
長澤氏は「輸送能力の低下は生じていない」としていますが、その要因に「消費低迷」を挙げています。 これは裏を返せば、「景気が良くなれば、再び崩壊する」という脆弱な土台の上にある成功ではないでしょうか。現場では、ドライバーの高齢化や労働時間制限により、ギリギリのところで回している実態があります。これを手放しで「生産性向上のチャンス」と呼ぶのは、現場の疲弊を過小評価していると言わざるを得ません。
● 国際協調の難しさを「諦め」にしていないか
環境問題(IMO規制)での国際協調の難しさを指摘していますが、グローバル物流を牽引する立場として、より具体的な「日本発の標準化」をリードする姿勢が欲しかったところです。不透明感が増す中で「若い人材が誇りを持てる」と語るには、抽象的な期待だけでなく、具体的な賃金水準や休日数の「業界標準」を示す責任があるはずです。
🧠 第3章|現場と管理者が2026年に刻むべき「次の一手」
所感にある「物流のプランニング産業化」を現場レベルで実現するために、我々が動くべき3つのポイントです。
- 「設計段階」への現場参画を徹底する 荷主主体の効率化事例が増えている今こそ、現場の運行管理者が「この設計では無理が出る」と計画段階でNOと言える、あるいは改善案を出せる体制を構築すべきです。
- サイバー対策を「他人事」にしない 「うちは中小だから狙われない」は通用しません。物流網のどこか一箇所が止まれば全体が止まります。最低限のセキュリティ教育を現場のルーチンに組み込むことが、2026年のBCP(事業継続計画)です。
- 「誇り」を具体的な数字に変える 政府の重点投資分野に物流が含まれている今こそ、その予算や補助金を「最新車両の導入」や「休憩施設の整備」といった、現場が肌で感じる改善に繋げる交渉を、管理者は進めるべきです。
🏁 おわりに|物流は「プランニング」と「汗」の融合体である
長澤会長が掲げる「若い人材が誇りを持って働ける産業」への進化。 それは、上流のプランニングが輝くだけでは達成できません。そのプランを、泥臭く現場で実行し、不測の事態(災害や攻撃)から荷物を守り抜く「現場の力」が正当に評価されて初めて実現します。
2026年、物流は確かに「チャンス」の局面にある。
しかし、そのチャンスを掴めるのは、綺麗な設計図を描く人ではなく、現場の摩擦を理解し、それを解消し続ける「統括力」を持つ者だけです。
【参考:2026年 物流連・重点キーワード】
- 物流の産業化: プランニングを含む産業への深化
- 経済安全保障: 国土強靭化を横断的に支える役割
- リスク対応: サイバー・リカバリー、防災
- 次世代育成: 若い人材が誇りを持てる産業への進化