物流業界入門

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【塗料物流の進化】大日本塗料「滋賀・物流集約」の本質

――自動化は目的ではありません。2026年、塗料物流は「製造との同居」で再定義されます

2026年1月13日。 大日本塗料が発表した、滋賀県湖南市への新拠点開設。

一見すると、老朽化に伴う「よくある拠点移転」のニュースに見えるかもしれません。 しかし、その設計思想を紐解いていくと、製造業が直面している「物流のラストフロンティア」への明確な回答が見えてきます。

関西エリアに分散していた機能を、なぜ今、滋賀に集約したのでしょうか。 13年現場を見てきた設計士の視点で、この再編の本質を解剖していきます。


1. 【構造解析】「運ぶための保管」から「作るための保管」へ

今回の移転で最も注目すべきは、単なる面積の拡大ではなく、「製造拠点との近接化」と「機能の統合」にあります。

これまでは、大阪府堺市の物流子会社拠点で約2,000トンの在庫を管理していましたが、製造現場との物理的な距離がどうしても非効率を生んでいました。

  • 拠点間輸送という「何も価値を産まない移動」の発生
  • 製造リードタイムと配送リードタイムの断絶
  • 危険物と一般物の管理コストの重複

大日本塗料は、これら「製造と物流の間に落ちていたロス」を、滋賀の新拠点に「高層自動ラック」という背骨を通すことで、一気に解消しようとしています。

「ただ置く場所」を作る時代は終わりました。 今、求められているのは「製造ラインの延長線上にある物流」なのです。


2. 【現場の真実】「危険物倉庫」という高い壁をどう越えたか

塗料物流において、最大のネックとなるのは「危険物」の取り扱いです。 消防法などの厳しい規制があるため、自動化や集約が極めて困難な領域として知られています。

大日本塗料の新拠点は、この課題に対して真っ向から設計をやり直しています。

  • 危険物×高層自動ラックの導入 入出庫を一体で自動制御することで、大幅な省人化を実現しました。属人的な「職人技によるピッキング」を、確実なシステムへと置換しています。
  • 定温倉庫の併設 常温品、温度管理が必要な商品、そして危険物を同一拠点内で「一元管理」できる体制を整えました。

これにより、これまでバラバラのトラックで運んでいた荷物を、「まとめ配送」へと昇華させています。これは輸送効率を劇的に改善する一手となります。


3. 【2026年中計の裏側】「物流の自社完結」を捨てる準備

このニュースの後半には、非常に重要な方針が記されています。

「外部の取引先に対しても保管や荷役業務を含む物流サービスの提供を進めていく方針」

これは、自社の物流拠点を「コストセンター(出費)」ではなく、「プロフィットセンター(収益部門)」へと変革させるという宣言に他なりません。

2026年、物流キャパシティは国家的な「希少資源」となります。 自社の荷物だけを運ぶのは、もはや贅沢すぎる時代です。 最新の自動化設備と、太陽光パネル等の環境対応を兼ね備えた滋賀事業所は、他社の荷物も飲み込むエリアハブとしての役割を明確に狙っています。


4. 【ホワイト物流の具現化】「待たせない」が最強の採用戦略

今回の設備投資において、ハード面以上に高く評価すべきは「ドライバーへの配慮(ソフト面)」です。

  • 複数台が同時に作業可能な出荷場の新設
  • トラック待機場所の確保
  • 快適なトイレ・休憩所の整備

「2024年問題」の本質は、賃金の問題だけではありません。「拘束時間の理不尽さ」や「労働環境の劣悪さ」です。 ドライバーから選ばれなければ、どんなに優れた製品も出荷することはできません。 大日本塗料は、拠点設計そのものに「運送業者への敬意」を組み込んだのです。


5. 【総括】設計者が学ぶべき「拠点再編の3原則」

この事例から、私たちが抽出するべき教訓は以下の3点に集約されます。

  1. 「老朽化」を「進化の好機」に変える 単なる建て替えに留めず、自動化・省人化への「OSの入れ替え」を同時に行っています。
  2. 情報管理システム(ハンディ等)の標準化 高価なロボットを導入する前に、ヒューマンエラーを排除する「情報の整理」を徹底しています。
  3. 物流を「環境」と「外販」の文脈で語る CO2削減と外販機能。この2軸がなければ、これからの時代、大規模な投資は正当化されません。

結論|滋賀に建設されたのは「倉庫」ではなく「インフラ」です

大日本塗料の決断は、関西エリアの塗料物流における「標準(スタンダード)」を一段階引き上げました。

分散していた2,000トンの重みを、自動化された垂直空間へ集約し、さらに外販という攻めの姿勢を見せる。 これは、塗料メーカーが「モノを作る会社」からサプライチェーンを最適化する会社」へと進化しようとする強い意志の現れです。

2026年。あなたの拠点は「荷物が溜まるだけの場所」になっていませんか? それとも「新たな付加価値を生む場所」へと進化していますか?

物流設計の差が、そのまま企業の生存率に直結する時代が、もう目の前まで来ています。


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