―― それは「利便性の提供」か、それとも“物流インフラ”による欧州占領か
中国EC界の物流モンスター、京東物流が、ついに欧州で本気の一手を打ちました。
欧州向け新配送サービス「JoyExpress」を立ち上げ、英国・ドイツ・フランスなどで当日・翌日配送を自社フリートで展開します。
メディアでは「海外展開の加速」「欧州市場への本格参入」といった前向きな言葉が並びます。
しかし、CLOの視点でこの動きを読むと、見える景色はまったく異なります。
これは、先行するSHEINやTemuが抱えてきた
「ラストワンマイルの脆弱性」という急所を突き、
欧州ECの“基本OS”を書き換えに来たインフラ侵攻に近い戦略です。
1. SHEIN・Temuとの決定的差──「空中戦」か「地上戦」か
まず明確にしておきたいのは、JoyExpressはSHEINやTemuと競合しているが、戦場が違うという点です。
| 項目 | SHEIN / Temu | 京東(JoyExpress) |
|---|---|---|
| 戦い方 | 空中戦(クロスボーダー) | 地上戦(域内完結) |
| 物流 | 中国→空輸→現地委託 | 欧州域内60拠点+自社車両 |
| 競争軸 | 価格・物量・トレンド | 速度・品質・信頼性 |
| 弱点 | 配送不確実性 | 初期投資・固定費 |
SHEINやTemuは、中国の工場を世界に直結させました。
一方で京東は、「欧州の中に中国並みの物流網を自前で作る」という、まったく異なる賭けに出ています。
これは価格競争ではありません。
物流インフラそのものを支配する戦争です。
2. 自社フリートと「設置一体型」が意味するもの
JoyExpressの特徴は、配送を外注せず、EVバンや電動自転車を用いた自社フリートに強くこだわっている点です。
理由は単純です。
欧州の既存キャリア(DHL、DPDなど)に依存していては、
京東が誇る「当日・翌日配送」という体験品質を制御できないからです。
さらに注目すべきは、
大型家電の配送+設置を一体で請け負うモデルです。
この領域は、アパレルや雑貨中心のSHEIN・Temuでは参入困難です。
京東はあえて、
- 高単価
- 大型
- クレーム耐性が低い
という“面倒だが、信頼が物を言う市場”を狙っています。
これは物流企業としての矜持であり、
同時にEC事業者に対する強烈な囲い込み装置でもあります。
3. 【構造考察】なぜ京東はラストワンマイルを外注しないのか
京東はすでに、世界24市場で1600超の倉庫を運営しています。
それでもなお、JoyExpressという自社配送網を新設した理由は明確です。
配送データこそが、次の支配資源だからです。
- 倉庫と車両をデータで直結し、配送の揺らぎを排除する
- 顧客体験・再配達・設置時間まで含めて最適化する
- 将来的には他社貨物を取り込む「物流OS」へ拡張する
これは単なる配送サービスではありません。
欧州の物流事業者を“使われる側”に回す準備です。
近鉄エクスプレスがタイで再エネを導入し、
「炭素コスト」を固定化したように、
京東は欧州で**「時間コスト」を支配しようとしています。
結論:2026年、欧州ECは「京東の屋根」の下に入る
Joybuyの本格始動(3月)と連動したJoyExpressの投入。
これは、SHEIN・Temuが切り拓いた
「中国ECに対する心理的ハードルの低下」という土壌に、
京東が最高級の物流インフラを上書きする動きです。
CLOに突きつけられる問いは明確です。
安さのSHEIN、物量のTemu、
そして「生活インフラを奪いに来た京東」。
欧州の物流戦線は、
もはやローカルキャリアだけで守れる次元を超えています。
編集後記|「届く」のは当たり前。その先を誰が握るか
当日配送・翌日配送は、もはや差別化ではありません。
その体験を誰が、どのインフラで、支配するのかが本質です。
京東が欧州に敷いた60拠点の倉庫と自社フリートは、
街並みそのものを塗り替えていくでしょう。
物流は、もう「黒子」ではありません。
次に支配されるのは、生活そのものです。