―― それは「働きがい」の解放か、それとも“物流崩壊”への免罪符か
2026年2月。
衆議院選挙で高市早苗政権率いる自民党が316議席を獲得し、単独で憲法改正発議ラインを超える圧勝を収めました。
同時に、日本経済新聞が実施した当選者アンケートでは、
約6割が「より働ける制度(労働規制の緩和)」を支持。
この二つの事実が意味するものは、単なる政権の安定ではありません。
CLO(物流統括管理者)の視点で見れば、これは――
物流業界が2年間かけて積み上げてきた
「適正運賃」「労働時間管理」「現場のホワイト化」を、
政治が一気に“帳消しにできる権力構造”が完成した
という合図です。
1. 「3分の2」が意味するのは、議席数ではなく“現場無視の正当化”
衆院で3分の2を握るということは、
参院で否決されても法案を再可決できる絶対的な通行証を持ったということです。
これは民主主義の制度上は正しい。
しかし物流の現場から見れば、極めて危険な数字でもあります。
なぜなら、これまで物流改革を前に進めてきた論理は、こうだったからです。
- 規制があるから
→ 長時間労働ができない
→ だから運賃を上げざるを得ない
→ 結果として、現場改善と効率化が進む
ところが、政治が「より働ける制度」を掲げた瞬間、この因果関係は逆転します。
- 規制が緩むなら
→ 多少無理をすれば回る
→ なら運賃交渉は不要
→ 現場改善も先送り
これは改革ではありません。
「コスト転嫁から逃げるための、国家ぐるみの思考停止」です。
2. 裁量労働制と物流は、本質的に“相性が最悪”である
今回のアンケートで示唆されている「より働ける制度」の中核は、
裁量労働制の拡大と、労働時間規制の柔軟化です。
【働き方改革の現在地】物流2024年問題の先にある、2026年の“聖域なき戦い” - 物流業界入門
しかし、物流の仕事は次の二点から逃れられません。
- 物理的移動が必須であること
- 拘束時間と安全性が直結していること
この産業において「裁量」という言葉は、極めて歪みやすい。
「成果で評価する」
↓
「時間は見ない」
↓
「現場が回るまでやれ」
↓
ブラックボックス化
これは制度の問題ではなく、構造の問題です。
1月29日の記事で書いた通り、
物流における最大の論点は「責任の所在」です。
【構造考察】衆院選アンケートが暴く「労働の未来」――物流現場を救うのは“監督指導”か“義務化”か - 物流業界入門
に他なりません。
3. 【構造考察】これは「2026年問題」を解決する政策ではない
高市政権と緩和派議員がやろうとしているのは、
2026年問題の解決ではありません。
これは、
「人が足りないなら、
一人あたりの稼働限界を引き上げればいい」
という、極めて短絡的な“力技”です。
物流はすでに限界近くまで最適化されています。
ここから先にあるのは、
- 事故リスクの上昇
- 定着率の低下
- 若年層のさらなる忌避
- 中長期的な人材枯渇
という、静かな崩壊ルートです。
4. CLOが取るべきは「政治と逆方向」の経営判断
議会の6割が緩和派である以上、制度は緩みます。
それ自体は止められません。
しかし、だからこそCLOが取るべき行動は明確です。
「規制が緩むから、あえて規制を守る」
政治が「長く働け」と言うなら、
企業は「短く、強く稼ぐ」OSを完成させるべきです。
物流を救うのは制度ではありません。
構造を理解した側だけが持てる、交渉力です。
結論:2026年、物流は「政治」で壊されるのか
316議席という数字は、白紙委任状です。
その白紙に、誰の負担が書き込まれるのか。
「より働ける制度」という言葉が、
現場の悲鳴を消すための、
都合のいいスローガン
として使われるなら、
物流は政治によって静かに壊されていきます。
CLOに求められるのは、
追い風に乗ることではありません。
その風が、どこから吹き、何を吹き飛ばすのかを見抜くことです。
編集後記|多数決は、現場の正解を保証しない
6割の議員が賛成しても、
ドライバーの疲労は減りません。
事故リスクも消えません。
政治がブレーキを外すなら、
物流マンは自分たちの判断で、
ブレーキを踏み続ける覚悟を持つ必要があります。
それが、
この産業に残された最後の理性です。