―― それは「働き方改革」か、それとも“責任の分散”か
国交省が描く「分担輸送」が、なぜ現場で回らないのか
国土交通省は、長距離トラックドライバーの働き方改革を進めるため、
一つの荷物を複数の物流事業者で分担して運ぶ「分担輸送」の仕組みを支援する方針を示しました。
輸送ルートの途中にある倉庫やターミナルで荷物を積み替え、
ドライバーが日帰りできる運行を実現する――。
理念としては、非常にわかりやすく、耳当たりも良い施策です。
しかし、物流の現場視点で見ると、
この「分担輸送」は中継拠点整備や大手主導のリレー輸送とは決定的に性質が異なると感じています。
1. 分担輸送は「仕組み」ではなく「善意」に依存している
今回の法改正案では、
2社以上の物流・倉庫事業者が連携計画を作成し、
国の認定を受ければ補助や税制優遇を受けられるとされています。
一見すると合理的ですが、ここには大きな前提があります。
事業者同士が、対等かつ円滑に連携できること
です。
現実には、
- 荷主が違う
- 運賃水準が違う
- 責任範囲の考え方が違う
こうした違いを抱えた事業者同士が、
トラブルゼロで荷物を受け渡す前提に立つこと自体が、すでに理想論です。
2. 中継拠点政策との決定的な違い
私は以前、
- 中継拠点の自動化・税制優遇
- 大手によるリレー輸送の実証実験
について書きましたが、これらと分担輸送は本質が異なります。
中継拠点政策の特徴
- 拠点という物理インフラが先にある
- 税制優遇で投資回収の道筋が見える
- 自動運転や幹線輸送と将来像が接続している
大手リレー輸送の特徴
- 同一企業・グループ内での統制
- 運賃・責任・KPIが一本化されている
- 現場に「断れない理由」がある
一方、分担輸送はどうでしょうか。
3. 分担輸送が抱える「見えない摩擦」
分担輸送は、制度上は美しく見えますが、
現場では次のような摩擦が必ず発生します。
- 荷物事故はどちらの責任か
- 遅延時の説明責任は誰が負うのか
- 荷主への請求はどう分けるのか
- 積み替え時間は誰のコストか
これらを事前に完璧に決め切ることが求められます。
つまり分担輸送とは、
物流オペレーションである前に、契約と調整の塊
なのです。
4. 中小事業者ほど「断る自由」がありません
今回の施策は「中小事業者の連携」を促すとされています。
しかし現実には、
- 仕事を断れない
- 荷主に逆らえない
- 条件交渉の余地がない
こうした立場の事業者ほど、
分担輸送という名の“押し付け”を受けやすくなります。
結果として、
- 責任だけ増える
- 運賃は増えない
- 調整コストだけ膨らむ
という構図になりかねません。
結論:分担輸送は「最後」に来るべき施策です
分担輸送が完全に否定されるべきだとは思いません。
ただし順番があります。
- 中継拠点というハードを整える
- 幹線輸送の自動化・標準化を進める
- 運賃と責任分界のルールを整理する
- その上で、初めて分担輸送が現実味を持つ
現状の分担輸送政策は、
土台がないまま「協力してください」と言っている段階に見えます。
編集後記|「連携」は魔法の言葉ではありません
物流政策の文脈では、
「連携」「協調」「分担」という言葉がよく使われます。
しかし現場では、
連携とはコストと責任の再配分にほかなりません。
それを誰が負うのか。
その設計を曖昧にしたままでは、
分担輸送は「働き方改革」ではなく、
現場の疲弊を分散させる仕組みになってしまいます。
制度は善意で回りません。
回るのは、構造と数字です。