トラック不足の受け皿は、千葉港から「海」へ広がるのか
トラックドライバーの「人手」を奪い合う時代は、すでに終わっています。
いま物流に突き付けられているのは、人を増やす競争ではなく、構造を変えられるかどうかです。
愛媛県四国中央市に本社を置く大王海運は、
千葉港を起点とするRORO船(シャシー・完成車輸送船)の
西日本向け定期便を、従来比1.5倍となる週9便体制へと拡充しました。
2024年、そして2026年と段階的に強化される拘束時間規制のなかで、
「人を増やさずに、運び方を変える」というこの判断は、
日本物流が直面している現実に対する、かなり率直な回答だと感じます。
1|なぜ今、千葉港の「RORO船」なのか
今回の増便は、千葉県と国が共同で進める新岸壁整備という
いわゆる「官民連携」が注目されがちです。
しかし、本質はもっと現場寄りの、切実な事情にあります。
- ドライバーを船に乗せない
シャシーのみを積載することで、陸上での拘束時間を大幅に削減できます。 - 2026年問題への先回り
法解釈や運用での調整ではどうにもならない、物理的な人手不足への対応です。 - 長距離輸送の切り離し
「長距離は海、集配は陸」という役割分担を、現実の運行に落とし込んでいます。
これは海運業界だけの話ではありません。
トラック事業者が、自社のドライバーを“燃やし尽くさない”ための生存戦略でもあります。
2|トラック業界はROROをどう「使い倒すべきか」
RORO船を単なる「外注先」「下請け輸送」として捉えると、この仕組みは機能しません。
経営の視点で見ると、使い方はかなり明確です。
- 地場配送への特化
長距離を海に預けることで、ドライバーを「毎日帰れる仕事」に集中させられます。
これは採用難に対して、極めて強力な武器になります。 - 車両回転率の改善
ヘッドを港と荷主の往復に専念させることで、1台あたりの実稼働時間を引き上げられます。 - 港湾を中継拠点として再定義する
国交省が進める中継拠点政策や税制優遇と組み合わせれば、
港湾エリアは「単なる通過点」から「戦略拠点」へと変わります。
3|ROROが向く荷物、向かない荷物の境界線
当然ながら、すべての貨物を海に流せるわけではありません。
CLO(物流統括管理者)の視点であれば、以下の仕分けは避けて通れません。
向く荷物(ストック型)
- 重量物・大型貨物(飲料、紙、建材など)
- 到着時間に一定のバッファを持てる定期輸送
- 完成車・シャシーなど、RORO本来の用途
向かない荷物(フロー型)
- 超短納期・即時性が求められるECや生鮮品
- 小口多頻度で混載前提の貨物
- 振動や温度変化、塩害リスクを許容できない精密機器
ここを見誤ると、ROROは「効率化」ではなく
単なるコスト増要因になってしまいます。
結論|海を「代替」ではなく「道」として設計できるか
大王海運の増便は、物流業界に一つの「選択肢」を示しました。
ただし、それを活かせるかどうかは、
荷主や運送会社の設計思想が、陸前提から脱却できるかにかかっています。
トラックを否定する話ではありません。
むしろ逆です。
トラックを救うために、海を使う。
この発想に切り替えられない限り、
2026年以降、陸だけに依存する物流は確実に立ち行かなくなります。
RORO船は万能ではありません。
しかし、延命策ではなく「構造転換の道具」として使えるかどうか。
その分かれ目に、いま日本の物流は立っています。