高市総理が、労働時間規制の緩和検討を指示。
その一方で、厚生労働省の「総点検」調査では、労働者の約59.5%が「このままで良い」と回答し、「増やしたい」はわずか10.5%にとどまりました。
しかも――
時間外労働の上限(月80時間平均)を超えてまで増やしたいと答えたのは、0.5%。
この数字をどう読むべきでしょうか。
私はここに、物流を含む日本の産業構造の本質的課題が浮き彫りになっていると考えます。
■ 労働時間は“不足”しているのか
物流2024年問題は、時間外労働の上限規制が直接の引き金でした。
しかし当時、私はこう書きました。
問題は「時間」ではなく、「構造」である。
今回の調査結果は、それを裏付けています。
労働者の多くは、労働時間を増やしたいとは思っていない。
企業側も「現状維持」が最多。
つまり――
社会全体が、長時間労働回帰を望んでいない。
ではなぜ、規制緩和が議論されるのでしょうか。
■ 物流業界で起きている“誤解”
物流現場では今も声があります。
「規制があるから回らない」
しかし本当にそうでしょうか。
もし規制を緩めれば、輸送力不足は解決するのか。
答えは限定的です。
なぜなら、ドライバー不足の本質は
・賃金水準
・拘束時間の長さ
・荷待ち時間
・積み下ろしの非効率
といった構造問題にあるからです。
単純に労働時間を延ばしても、担い手は増えません。
むしろ若年層の参入は遠のきます。
■ 「増やしたい」10%の正体
調査では約10%が「労働時間を増やしたい」と回答。
これは決してゼロではありません。
しかし重要なのは、
その大半が“上限規制内”での増加希望だという点です。
つまり、
もっと稼ぎたいが、過労は望んでいない。
これは物流ドライバーの実態とも重なります。
稼げる環境は欲しい。 しかし持続不能な働き方には戻りたくない。
この声を無視して規制を緩めれば、
短期的には回っても、 長期的には崩れます。
■ 中東情勢と輸送不安定化の時代に
いま世界は安定していません。
中東情勢の緊張。 エネルギー価格の変動。 海上輸送のリスク上昇。
物流コストは構造的に上振れ圧力がかかっています。
この局面で必要なのは、
労働時間延長ではなく、
・輸送効率の最大化
・拠点配置の見直し
・モーダルシフト
・データ連携
といった設計変更です。
人を酷使して乗り切る時代は終わっています。
■ 政策が問われる本質
高市総理は、
・裁量労働制の見直し
・副業・兼業の健康確保
・テレワーク拡大
を掲げています。
方向性として「柔軟化」は理解できます。
しかし、柔軟化と緩和は違います。
柔軟化は設計の高度化。 緩和は制限の解除。
物流に当てはめれば、
柔軟化=DX・共同配送・標準化 緩和=長時間労働容認
です。
どちらに舵を切るかで、 日本の競争力は変わります。
■ 物流の未来は“時間”ではなく“密度”
私はこう考えています。
これから問われるのは、
労働時間の総量ではなく、
単位時間あたりの生産性密度
です。
・待機時間ゼロ設計
・積載率向上
・ルート最適化
・在庫配置の戦略化
これができれば、 時間を増やさなくても供給力は維持できます。
■ 問い
もし規制を緩めたとして、
若者は物流業界を目指すでしょうか。
もし再び長時間労働が常態化したら、
企業のESG評価はどうなるでしょうか。
そして何より、
持続可能なサプライチェーンは築けるでしょうか。
■ 結論
今回の調査は明確です。
社会は「長く働く」方向を望んでいない。
ならば進むべき道は一つ。
構造を変えること。
労働時間を増やすかどうかではありません。
物流を、そして産業を、
持続可能な設計に変えられるかどうかです。
規制緩和は、解決策ではない。
それは、設計変更を先送りする選択肢に過ぎません。