物流業界入門

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【「残業上限規制は意味がない」は本当か】 ── 労働時間データの誤読と物流現場の現実

厚生労働省の労働時間に関する調査を巡り、
「時間外労働の上限規制は労働時間短縮に効果がない」という見方が一部メディアで紹介されました。

背景にあるのは、

2019年に導入された
働き方改革関連法

です。

この制度では、

時間外労働の上限が

  • 月45時間
  • 年360時間

とされ、

繁忙期でも

  • 月100時間未満
  • 複数月平均80時間以内

に制限されました。

しかし研究では

「平均労働時間に大きな変化は見られない」

という結果が示されています。

これをもって

上限規制は意味がない

という議論が出ています。

ですが、この解釈は

かなり乱暴

です。

なぜなら

平均値の議論で制度を評価している

からです。


平均労働時間という「統計の罠」

今回の分析では、

平均労働時間を指標にしています。

確かに総務省の労働力調査を見ると、

平均労働時間は

2018年 158.4時間
↓
2025年 149.0時間

と減少しています。

しかし研究では、

この減少は

  • コロナ禍の働き方変化
  • パート労働者増加
  • 高齢者就業増加

などが原因で、

上限規制の影響ではない可能性が指摘されています。

ここで重要なのは、

平均値の意味

です。

平均値とは、

すべての労働者を均した数字です。

しかし日本の労働時間は、

実際には

業界ごとに極端な差

があります。


長時間労働は「特定業界」に集中している

現実の日本社会では、

長時間労働は特定の業界に集中しています。

例えば

  • 物流
  • IT
  • 建設
  • 飲食
  • 医療

です。

つまり構造はこうです。

大多数の労働者
↓
そこまで長時間ではない

一部の業界
↓
極端な長時間労働

この場合、

平均値を見ても

問題は見えません。

例えば

100人中
90人 → 月20時間残業
10人 → 月120時間残業

この場合、

平均残業時間は

30時間程度

になります。

しかし実際には

10人が過労ライン

です。

平均値では、

この問題は

完全に隠れてしまいます。


物流業界は「上限規制ギリギリ」の世界

特に物流業界では、

残業上限は
理論ではなく現実です。

私自身、物流現場で働きはじめた頃、
今から10年以上前ですが、

月100〜200時間の残業

は珍しくありませんでした。

繁忙期になると

  • 深夜帰宅
  • 休日出勤
  • 次の日も早朝出社

という働き方が当たり前でした。

当時はそれが業界の「普通」でしたが、
今振り返ると明らかに異常な働き方です。

こうした現実を知らずに、

「上限規制は意味がない」

と平均労働時間だけで評価するのは、
少し現場から離れた議論に見えてしまいます。

トラック運転手の労働時間も、

長年

長距離輸送
↓
深夜運行
↓
荷待ち
↓
長時間労働

という構造でした。

その結果、

物流業界では

月100時間残業

が珍しくない状況でした。

そういった状況を是正するために導入されたのが

時間外労働の上限規制

です。

2024年問題が象徴するように、

この規制は

物流業界に

極めて大きな影響

を与えています。


規制がある世界とない世界

ここで重要なのは、

制度の存在そのものです。

もし上限規制がなければ、

企業は

際限なく労働時間を延ばす

ことができます。

しかし現在は

月100時間未満
複数月平均80時間以内

というラインがあります。

これは

過労死ライン

でもあります。

つまり上限規制は、

労働時間を減らすというより

極端な長時間労働を止める装置

なのです。

この意味を理解しないまま

「平均労働時間が変わらない」

と言っても、

制度の評価にはなりません。


労働時間問題の本質は「産業構造」

日本の長時間労働問題は、

単純な労働規制では解決しません。

本質は

産業構造

です。

例えば物流では、

  • 多重下請け
  • 低運賃
  • 荷待ち時間
  • 長距離輸送

といった問題があります。

この構造がある限り、

企業は

労働時間で調整

しようとします。

つまり

低い運賃
↓
人を増やせない
↓
長時間労働

という構造です。


平均ではなく「分布」を見よ

労働時間問題を議論するなら、

見るべきは

平均

ではありません。

重要なのは

分布

です。

例えば

  • 月20時間残業の人
  • 月100時間残業の人

この差です。

社会問題になっているのは、

後者です。

つまり制度の目的は

平均を下げることではない

のです。

目的は

過労ラインを止めること

です。


まとめ

上限規制は「意味がない」のではない

時間外労働の上限規制について、

平均労働時間が変わらないから

「効果がない」

と評価するのは、

かなり乱暴な議論です。

日本の長時間労働は、

特定の業界に集中しています。

特に

  • 物流
  • IT
  • 建設
  • 飲食

などです。

この現実を見ずに

平均値だけを見ても、

問題は見えてきません。

上限規制の役割は、

平均労働時間を下げることではありません。

それは

極端な長時間労働を止める安全装置

です。

そして物流業界のように、

実際に

上限ギリギリで働く世界

では、

この制度の意味は決して小さくありません。

労働時間問題を議論するなら、

平均ではなく

現場の構造

を見る必要があります。

私自身、かつて月100〜200時間の残業を経験しました。

だからこそ言えますが、 労働時間の上限規制は決して「意味のない制度」ではありません。