── AIより先に消えるのは、“現場依存”かもしれません
物流現場で今、静かに進んでいる変化があります。
それは単なるDXでも、 単なる省人化でもありません。
「属人化からの脱却」
です。
NTTロジスコが今回、 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の 「全日本物流改善事例大会2026」で発表した2事例は、 まさに現在の物流構造変化を象徴しています。
しかも興味深いのは、
- AI活用
- 自動化
- 人員配置最適化
という表面的な話では終わっていない点です。
本質は、
「人に依存して成立していた物流」
そのものを、 再設計し始めているところにあります。
■ 物流現場は「ベテラン」で回っていた
まず前提として、 日本物流は長年、
「現場の経験値」
で成立してきました。
例えば、
- 誰をどこへ応援に出すか
- どの作業者が何に強いか
- 繁忙時に誰が回せるか
- どこが詰まりやすいか
これらは多くの場合、
“ベテラン管理者の頭の中”
に存在していました。
つまり物流現場とは、 システムで回っていたのではありません。
「知っている人」
がいることで回っていたのです。
しかし今、 その前提が崩れています。
理由は明確です。
人が足りないからです。
■ 西日本MLCの改善は「人を増やした」のではない
今回NTTロジスコ西日本マーケティングロジスティクスセンターが行ったのは、
単なる応援体制強化ではありません。
むしろ逆です。
「誰でも応援できる状態」
を作ったのです。
ここが重要です。
従来の物流現場では、
「Aさんしか分からない」 「この作業はベテラン限定」
という状態が大量に存在していました。
しかしそれでは、
- 繁忙対応
- 人員変動
- 欠員対応
- 急な波動
に耐えられません。
そこで同センターは、
- 業務内容を見える化した「求人票」
- 作業スキルを一覧化した「スキルシート」
- 需要予測ベースの配置設計
を整備しました。
これは単なる改善活動ではありません。
物流現場の
「暗黙知」
を、
「共有可能な構造」
へ変換する作業です。
つまり、
“人依存オペレーション”
から、
“再現可能オペレーション”
へ移行し始めているのです。
■ 「多能工化」の本当の意味
物流業界では昔から、
「多能工化」
という言葉が使われてきました。
しかし実際は、
「何でもやらされる」
状態になっていた現場も少なくありません。
今回の改善が興味深いのは、
体系化
されている点です。
つまり、
- 誰が
- どこまでできて
- 何へ応援可能で
- どのタイミングで投入できるか
を、 構造的に整理している。
これは非常に大きい。
なぜなら今後の物流では、
「固定人員固定業務」
が成立しにくくなるからです。
物量変動。
季節波動。
欠員。
短納期。
これらに耐えるには、
“流動的に再配置できる現場”
が必要になります。
つまり今後重要なのは、
人を増やすこと
ではなく、
「人を動かせる構造」
なのです。
■ 埼玉物流センターの改善はさらに象徴的
もう一つの埼玉物流センター事例は、 さらに現代的です。
こちらは、
AI画像認識 × 自動搬送 × 動線最適化
による改善でした。
対象となったのは、 レンタル通信機器の回収再利用工程です。
ここで重要なのは、 従来、
「熟練者の目視」
に依存していた点です。
物流現場では今でも大量にあります。
- 見れば分かる
- 慣れればできる
- ベテランなら判断できる
という作業です。
しかしこれは裏を返せば、
ベテランがいないと止まる
ということでもあります。
今回NTTロジスコは、
AI画像認識
によって、 その判断そのものを標準化しました。
結果として、
- 生産性30%向上
- 人員11人削減
- 仕分けミス0%
を実現しています。
これは単なる省人化ではありません。
「判断工程」
そのものを、 人間依存から切り離したのです。
■ 本当に変わっているのは「物流OS」
ここが今回最も重要です。
今物流業界では、
ロボット導入
よりも先に、
“物流OS”
そのものが変わり始めています。
つまり、
- 誰が知っているか
- 誰が経験しているか
- 誰なら回せるか
に依存していた構造を、
- 可視化
- 標準化
- データ化
- 自動判断化
へ置き換え始めている。
これは極めて大きな転換です。
なぜなら物流業界は長年、
「人で吸収する」
ことで成立してきたからです。
しかし今は、
人そのものが不足している。
だからこそ今後は、
“人が頑張る物流”
から、
“構造で回る物流”
へ変わらざるを得ません。
■ AIが仕事を奪うのではない
最近は、
「AIで仕事がなくなる」
という議論が増えています。
しかし物流現場で起きている現実は、 少し違います。
実際には、
「人がいないから、AIを使わざるを得ない」
のです。
特に物流では、
- 人手不足
- 高齢化
- 熟練者減少
- 教育コスト増大
が同時進行しています。
つまり現在のAI導入は、
“効率化競争”
というより、
“維持するための自衛”
に近い。
だから今後重要なのは、
AIを導入したか
ではありません。
- 現場を見える化できているか
- 属人化を把握しているか
- 再現可能構造へ変換できているか
です。
ここを整理できない企業は、 AIを入れても止まります。
■ 物流は「人が頑張る産業」から変わり始めている
今回のNTTロジスコ事例は、 単なる改善活動受賞ではありません。
そこにあるのは、
「物流現場の時代転換」
です。
これまでの物流は、
- ベテラン
- 根性
- 我慢
- 調整力
で成立していました。
しかし今後は、
- 可視化
- 標準化
- 多能工化
- AI補助
- 動線設計
によって、 構造そのもので回す時代へ入っていきます。
つまり物流は今、
「現場依存型産業」
から、
“再現性産業”
へ変わり始めているのです。