2026年6月。
食糧法改正案が衆議院を通過しました。
今回の改正では、
長年にわたりコメ政策の象徴とされてきた
「生産調整」
の文言が削除され、
代わりに
「需要に応じた生産」
が明記されました。
さらに、
需給が逼迫した際に政府備蓄米を放出する仕組みについても、
卸売事業者などに一定量の保管を求める
「民間備蓄制度」
が導入されます。
ニュースだけを見ると、
「これでコメ価格が下がるのではないか」
と思う人もいるかもしれません。
しかし結論から言えば、
今回の法改正だけで店頭価格が大きく下がる可能性は高くありません。
むしろ今回の改正は、
「安くする政策」
ではなく、
「不足させない政策」
として理解した方が実態に近いでしょう。
■ 今回の改正は「増産政策」ではありません
まず誤解されやすいのですが、
今回の改正は
「コメをたくさん作るための法律」
ではありません。
背景には、
2025年に発生した
「令和の米騒動」
があります。
政府は、
不足も困る。
余りすぎても困る。
という状況の中で、
需給バランスを安定させることを目指しています。
つまり、
今回の法改正は
「価格を下げる」
よりも、
「需給を安定させる」
ことが主目的なのです。
■ なぜコメ価格は下がらないのか
多くの人は、
供給が増えれば価格は下がると考えます。
もちろん理論上は正しいです。
しかしコメは、
収穫して終わりの商品ではありません。
- 乾燥
- 保管
- 精米
- 袋詰め
- 輸送
- 卸売
- 小売
という長いサプライチェーンを経て店頭へ並びます。
つまり価格を決めているのは、
農家だけではありません。
流通全体です。
■ コメも物流費高騰から逃れられない
実は近年のコメ価格上昇には、
物流コストも大きく影響しています。
例えば、
- 軽油価格上昇
- ドライバー不足
- 人件費上昇
- 倉庫費用上昇
- 包装資材高騰
などです。
コメは重量物です。
5kgでも重い。
10kgならさらに重い。
全国各地へ大量輸送されるため、
物流費の影響を受けやすい商品でもあります。
2024年問題によって、
これまで現場の長時間労働で吸収されていたコストも、
徐々に価格へ反映されるようになっています。
■ 「民間備蓄」は価格を下げる仕組みではない
今回の改正で注目されるのが、
民間備蓄制度です。
しかしここにも誤解があります。
備蓄とは、
在庫を持つことです。
在庫を持てば、
当然コストが発生します。
例えば、
- 倉庫費用
- 温湿度管理費用
- 品質管理費用
- 金融コスト
- 在庫リスク
です。
つまり、
供給安定には役立つかもしれませんが、
価格を押し下げる仕組みではありません。
むしろ安定供給のためのコストが新たに発生するとも言えます。
■ 「令和の米騒動」の本質は本当に生産不足だったのか
2025年の米騒動では、
多くの人が
「コメが足りない」
と考えました。
しかし物流の視点で見ると、
少し違った景色が見えます。
実際には、
ある地域には在庫がある。
しかし必要な場所には届かない。
こうした
「在庫偏在」
も起きていました。
物流業界で言えば、
これは単純な供給不足ではありません。
供給網の問題です。
つまり、
どれだけ作ったかだけではなく、
どこに保管され、
どう流通し、
どのタイミングで市場へ出るかが重要になります。
■ 本当の課題は「供給能力」
今回の法改正を見ていると、
政府もようやく問題の本質に気付き始めたように見えます。
これまでの議論は、
どれだけ作るかでした。
しかし今後は、
「どう供給するか」
が重要になります。
備蓄。
保管。
流通。
輸送。
在庫管理。
これらを含めたサプライチェーン全体の設計です。
■ 結論|コメ価格を決めるのは農業だけではない
今回の食糧法改正によって、
需給安定に向けた仕組みは強化されるでしょう。
しかし、
それだけで店頭価格が大きく下がるとは考えにくい。
なぜなら、
現在のコメ価格には、
- 生産コスト
- 肥料価格
- エネルギー価格
- 人件費
- 物流費
- 備蓄コスト
が組み込まれているからです。
今回の改正は、
「安いコメ」を作るための政策ではありません。
むしろ、
「コメ不足を起こさないための政策」
です。
そして物流の視点で見るなら、
今回の法改正が問いかけているのは、
生産量ではありません。
「必要な場所へ、必要な時に届けられる供給網をどう維持するか」
です。
令和の米騒動が教えたのは、
作ることと届けることは別問題だという現実でした。
そして今後の食料安全保障は、
農業政策だけでなく、
物流政策そのものが重要になっていくのかもしれません。