2026年6月3日。
建設機械メーカーの諸岡は、
農機事業からの撤退を発表していた三菱マヒンドラ農機から資産譲渡を受け、
新型トラクターを発売すると発表しました。
さらに三菱マヒンドラ農機は、
紙マルチ田植え機を含む他の農機についても、
複数企業と譲渡協議を進めていることを明らかにしています。
このニュースを見て、
私は以前書いた記事を思い出しました。
当時私は、
三菱マヒンドラ農機の撤退を
「農機事業の失敗」
ではなく、
「三菱グループによる事業ポートフォリオ転換」
として捉えました。
そして今回の資産譲渡は、
その考察をさらに裏付ける動きに見えます。
【三菱マヒンドラ農機の撤退】── これは敗北では無く物流思想の転換であり、三菱ロジスネクストTOBと同一線上の決断 - 物流業界入門
■ 三菱が捨てたのは農業ではない
前回の記事でも書きましたが、
三菱が手放したのは
農業そのものではありません。
農機産業が抱える構造です。
農業機械は、
単に製造すれば終わる商品ではありません。
- 生産
- 在庫
- 輸送
- 販売
- 部品供給
- 修理対応
まで含めて初めて成立します。
しかも農機は、
大型で重く、
保守期間も長い。
物流の視点で見れば、
典型的な
「重く、遠く、長く支える産業」
です。
人口減少が続く日本では、
こうした産業の維持コストは年々上昇しています。
だから三菱は、
農業から撤退したのではなく、
「重い供給網」
から撤退したとも言えるのです。
■ しかし供給網そのものは消えない
ここが今回のニュースで重要な部分です。
三菱マヒンドラ農機は撤退しました。
しかし、
トラクターはなくなりません。
田植え機もなくなりません。
農業もなくなりません。
なぜなら、
社会に必要な機能だからです。
すると何が起きるか。
誰かが引き継ぐのです。
今回の諸岡による資産譲渡受け入れは、
まさにそれです。
つまり、
「企業は撤退しても供給網は残る」
ということです。
■ 本当に起きているのは供給網の組み替え
物流業界でもよくあります。
会社がなくなる。
事業を売却する。
拠点を閉鎖する。
しかし荷物は消えません。
輸送需要は残ります。
すると別の企業が引き継ぐ。
今回も同じです。
三菱マヒンドラ農機が消えるのではありません。
農機供給網が再配置されているのです。
だからこれは、
「農機メーカー撤退」
というニュースではなく、
「農機サプライチェーン再編」
というニュースとして見た方が本質に近いでしょう。
■ なぜ諸岡だったのか
諸岡は、
クローラダンプや特殊運搬車両で知られる企業です。
建設機械メーカーという印象が強いかもしれません。
しかし同社は、
特殊用途機械や悪路対応車両に強みを持っています。
つまり、
一般量産市場ではなく、
ニッチ市場で高い技術力を持つ企業です。
縮小市場では、
全てを抱える企業よりも、
特定分野で強い企業が残りやすい。
これは物流業界でも同じです。
総合物流より、
冷凍や医薬品、
重量物や危険物など、
専門分野に強い企業が存在感を高めています。
農機業界でも、
同じ現象が起きているように見えます。
■ 食糧法改正との矛盾
ここで興味深いのが、
同じタイミングで進む食糧法改正です。
政府は、
令和の米騒動を受けて、
需要に応じた生産や供給安定を掲げています。
つまり、
食料安全保障を強化しようとしている。
しかし一方で、
農業を支える農機メーカーは撤退している。
ここには大きな矛盾があります。
食料を増産したくても、
農機がなければ作れません。
作れても、
整備網がなければ維持できません。
さらに、
輸送網がなければ届けられません。
食料安全保障とは、
農家だけの問題ではないのです。
■ 農業の課題も物流の課題も同じになっている
以前の記事で私は、
農業のボトルネックは
「畑」
ではなく
「動線」
になりつつあると書きました。
今回の資産譲渡を見ると、
その傾向はさらに強まっています。
農業も物流も、
本当に問われているのは、
生産能力ではありません。
供給能力です。
- 作れるか
- 保管できるか
- 修理できるか
- 運べるか
その全体設計です。
つまり、
農業も物流も、
課題の本質は同じ場所に収束し始めています。
■ 結論|撤退したのは企業であり、供給網ではない
三菱マヒンドラ農機の撤退発表時、
多くの人が
「農機業界の縮小」
を感じたと思います。
しかし今回の諸岡による資産譲渡を見ると、
実態は少し違います。
なくなったのは企業です。
しかし供給網は生き残ろうとしている。
むしろ今起きているのは、
供給網の最適化です。
物流業界でも、
M&Aや事業統合が増えています。
その理由は同じです。
単独では維持できなくなった供給網を、
別の形で維持するためです。
だから今回のニュースは、
農機メーカーの話ではありません。
本質は、
「誰が供給網を維持するのか」
という話です。
そしてその問いは、
農業だけではなく、
物流業界にもそのまま突き付けられているのかもしれません。