また関税の話か。
そう思った人ほど、 今回のニュースは見落としやすいかもしれません。
なぜなら今回アメリカが問題視しているのは、
価格でもなければ品質でもないからです。
問われているのは、
「その商品は誰によって作られたのか」
です。
アメリカ通商代表部(USTR)は、日本を含む60の国・地域について、
強制労働によって生産された製品の流通防止措置が不十分であるとして、
最大12.5%の追加関税導入を検討すると発表しました。
一見すると通商問題です。
しかし物流の視点で見ると、
これは関税の話ではありません。
むしろ、
「サプライチェーン全体の監査」
が始まったと考えるべき出来事です。
■ 関税ではなく「入場審査」が始まった
これまでの関税は、
国内産業保護の色合いが強いものでした。
海外製品が安すぎる。
だから関税をかける。
非常に分かりやすい構図です。
しかし今回は少し違います。
アメリカが問題視しているのは、
商品の価格ではありません。
生産過程です。
つまり、
- 誰が作ったのか
- どこで作られたのか
- どのような労働環境だったのか
という部分です。
これは従来の関税というより、
「市場に入る資格があるか」
を問う制度に近い。
■ 背景にある新疆問題
今回の調査の背景には、
中国・新疆ウイグル自治区を巡る問題があります。
アメリカは以前から、
新疆地域における強制労働疑惑を問題視してきました。
特に、
- 綿花
- 繊維製品
- 太陽光パネル関連部材
- 一部農産品
などは継続的に調査対象となっています。
そして今回の報告書では、
日本が中国産綿花や綿製品の主要輸入国の一つであったことも指摘されています。
もちろん、
日本企業が強制労働を容認しているという話ではありません。
しかし、
「問題がないことを証明できるのか」
が問われているのです。
■ 物流が突然、人権問題の当事者になる
以前なら、
人権問題はメーカーの課題でした。
物流会社は運ぶだけ。
倉庫会社は保管するだけ。
そう考えられていました。
しかし今は違います。
サプライチェーン全体への責任が求められています。
つまり、
- どこで生産されたのか
- 誰が輸送したのか
- どこで保管されたのか
- どのルートを通ったのか
まで管理対象になる。
物流は単なる輸送機能ではなく、
供給網の証明機能になりつつあります。
■ 「安い」が正義だった時代の終わり
これまで企業は、
より安い原料を探してきました。
より安い労働力を探してきました。
より安い輸送手段を探してきました。
しかし今、
世界が求めているのは別の価値です。
それは、
「説明できること」
です。
たとえ安くても、
どこで作られたのか分からない。
誰が作ったのか分からない。
原料の出所が不明。
そうなれば取引そのものが難しくなる。
つまり企業は今後、
価格競争だけではなく、
監査可能性でも競争することになります。
■ 物流業界も避けて通れない
物流業界では近年、
- 2024年問題
- 脱炭素
- モーダルシフト
- DX
が大きなテーマになっています。
しかし今後は、
さらに新しいテーマが加わります。
それが、
「サプライチェーンの透明化」
です。
貨物を運ぶだけでは足りない。
どこから来たのか。
どこへ向かうのか。
その履歴を管理し、
証明できることが求められる。
物流企業の役割そのものが変わろうとしています。
■ 本質は「物流のESG化」
最近はESGという言葉をよく聞きます。
環境対応。
ガバナンス。
コンプライアンス。
これまでは主に環境が注目されてきました。
しかし今後は、
人権も同じくらい重要になります。
つまり、
物流のESG化です。
運ぶだけではなく、
その貨物の背景まで管理する。
それが新しい物流の役割になりつつあります。
■ 結論|問われているのは関税ではなく供給網である
今回の追加関税案を、
単なるトランプ流の関税政策として見ると本質を見誤ります。
本当に始まっているのは、
「人権リスクを含めたサプライチェーン監査」
です。
そしてその対象は、
メーカーだけではありません。
商社。
小売。
物流会社。
倉庫会社。
サプライチェーン全体です。
これまで企業が競っていたのは、
価格でした。
しかしこれから問われるのは、
「その商品は、どこで、誰によって、どのように作られたのか」
です。
今回のニュースは関税問題ではありません。
むしろ、
物流業界に対する
「あなたはその貨物の履歴を説明できますか」
という問いかけなのかもしれません。