── 物流業界で起きているのは「コンプライアンス問題」ではない
物流業界で不祥事が起きるたびに、
同じ言葉が繰り返されます。
「コンプライアンス意識の欠如」
「教育不足」
「ガバナンス強化が必要」
もちろん間違いではありません。
しかし私は、
それだけで説明できる段階は既に終わっていると思っています。
なぜなら近年、
物流業界で起きている問題には共通点があるからです。
- 日本郵便の大規模点呼不正
- SGHグローバル・ジャパン(SGJ)の通関業許可取消
- 西濃シェンカーのAEO認定失効
- 各地で続く長時間荷待ち問題
- 慢性的な人手不足
- 熱中症リスクの拡大
一見すると別々の問題に見えます。
しかし物流構造の視点で見ると、
すべて一本の線でつながっています。
■ 本当に起きているのは「法令順守コスト」の限界
物流は長年、
現場の努力によって支えられてきました。
- 待たされても我慢する
- 人が足りなくても回す
- 荷量が増えても吸収する
- 納期優先で対応する
そうした無数の現場努力が、
物流ネットワーク全体の緩衝材になっていました。
しかし2024年問題以降、
状況は変わり始めます。
時間外労働規制。
人材不足。
高齢化。
燃料高騰。
そして猛暑。
これまで現場が吸収していた負荷を、
吸収できなくなり始めたのです。
■ 点呼不正は「安全軽視」だったのか
日本郵便で発覚した点呼不正。
報道だけを見れば、
安全確認を怠った重大な違反です。
その通りです。
しかし、
なぜ点呼が形骸化したのか。
そこまで考えなければ再発防止にはなりません。
点呼は本来、
運行前の安全確認です。
絶対に省略してはいけません。
しかし現場では、
- 人が足りない
- 業務量が多い
- 出発時間が迫る
という状況が積み重なる。
すると本来安全のために存在する手順が、
「業務を遅らせる工程」
として認識され始める。
もちろん不正は許されません。
しかし問題は、
そうした判断が発生する環境が存在していたことです。
■ SGJはなぜ法を越えたのか
SGHグローバル・ジャパンの事案も同じです。
東京税関の調査で、
税関長の許可を受けないまま輸入された貨物が確認され、
通関業許可取消という極めて重い処分に至りました。
SG側は原因として、
- 越境EC貨物急増
- 人員不足
- リードタイム優先
- ガバナンス不足
を挙げています。
注目すべきは、
会社自身が
「法令順守より配送リードタイムを優先せざるを得ない状況」
があったと説明している点です。
ここに本質があります。
現場が勝手に暴走したのではありません。
物流能力を超えた需要を受け続けた結果、
法令順守との両立が崩れ始めたのです。
■ 西濃シェンカーAEO失効も同じ構造
西濃シェンカーでは、
長年維持してきたAEO通関業者認定が失効しました。
詳細理由は公表されていません。
しかしAEOとは、
税関が認める高度な法令順守体制そのものです。
つまり、
国際物流における「信用資格」です。
近年の国際物流は、
- 人権監査
- 原産地管理
- 制裁対応
- 輸出入管理
など、
要求水準が急速に高まっています。
物流企業は、
単に運ぶだけでは済まなくなっています。
その一方で、
貨物量は増え続けている。
ここにも同じ圧力が存在しています。
■ 物流業界は「速さの中毒」に陥った
ここ数年、
物流業界は異常な速度競争を続けてきました。
- 当日配送
- 翌日配送
- 越境EC即納
- リアルタイム追跡
利用者にとっては便利です。
しかし、
物流能力には限界があります。
本来なら、
処理能力を超えた時点で、
- 荷受け制限
- 納期見直し
- 料金改定
が必要です。
ところが日本の物流は、
長年そうしてきませんでした。
代わりに選んだのは、
「現場が何とかする」
です。
その結果、
余裕が消えました。
■ CLOが本来担うべき役割
改正物流効率化法により、
大手荷主にはCLO(物流統括管理者)の選任が求められています。
本来CLOの仕事は、
物流改善ではありません。
もっと重要なのは、
「運べないものを運ばないと判断すること」
です。
- 人員は足りているか
- 法令順守できるか
- 熱中症リスクはないか
- 安全確認は機能しているか
それらを確認した上で、
物流能力を超える要求には
「NO」と言う。
それが本来の役割です。
しかし現実には、
多くの企業で依然として
営業優先。
納期優先。
売上優先。
という構造が続いています。
■ 熱中症問題も同じ構造である
最近では、
日本郵便が猛暑時の配達休止方針を打ち出しました。
大林組も夏季施工時間を短縮しています。
これは偶然ではありません。
人間の身体そのものが、
物流能力の制約条件になり始めているのです。
つまり、
これまでのように
「頑張れば回る」
という考え方が通用しなくなっています。
■ 結論|物流を壊しているのは不正ではない
日本郵便の点呼不正。
SGJの通関取消。
西濃シェンカーのAEO失効。
これらを単なるコンプライアンス問題として見ると、
本質を見誤ります。
もちろん法令違反は許されません。
しかし本当に危険なのは、
法令違反そのものではありません。
危険なのは、
「法令順守と物流需要が両立できなくなり始めている構造」
です。
これまで物流は、
現場の我慢によって成立していました。
しかし、
2024年問題。
人材不足。
越境EC増加。
猛暑。
燃料高騰。
国際規制強化。
こうした圧力が同時に押し寄せています。
いま物流業界で起きているのは、
コンプライアンス危機ではありません。
「物流能力の限界が、法令順守を侵食し始めた構造危機」
です。
そして問われているのは、
現場教育ではなく、
その限界を前提に物流を再設計できるかどうかなのだと思います。