物流業界では長年、
「トラックが足りない」
と言われ続けてきました。
しかし本当に足りなかったのは、
トラックだったのでしょうか。
今回、
三菱食品と日清食品が発表した協業は、
その常識に疑問を投げかけています。
両社は商流と物流のデータを連携し、
AIを活用した発注最適化によって、
配送トラック台数を約30%削減できる
という試算結果を公表しました。
一見するとDX事例です。
AI活用事例として紹介されるかもしれません。
しかし物流の視点で見ると、
これはもっと大きな意味を持っています。
なぜなら、
「物流が足りない」のではなく、「物流が見えていなかった」
ことを証明してしまったからです。
■ 物流問題の正体は「運び方」ではなく「発注の仕方」
物流業界では、
2024年問題以降、
ドライバー不足ばかりが注目されてきました。
もちろんそれも事実です。
しかし現場を見れば分かります。
実際に物流を苦しめているのは、
- 特売
- 急な販促
- 当日変更
- 数量変動
- 欠品対応
です。
つまり、
物流現場ではなく、
商流側で発生する変動です。
今回の実証で興味深いのは、
トラックを増やしたわけでも、
倉庫を増やしたわけでもないことです。
発注を変えただけです。
それだけで30%削減できる。
これは非常に重い意味を持っています。
■ 物流効率化ではなく「営業効率化」が始まった
これまで企業は、
物流改善というと、
- 倉庫自動化
- AGV
- 配車システム
- AIルート最適化
などを考えてきました。
しかし今回は違います。
最適化されたのは、
物流そのものではありません。
発注です。
つまり、
物流改革が営業や販売計画に入り込んできた。
ここが重要です。
従来は、
営業が売る。
物流が運ぶ。
役割は分かれていました。
しかし今後は、
物流能力を無視した販売計画そのものが成立しなくなります。
■ 特売が物流を壊していた
実証で特に興味深いのは、
三菱食品が保有する
「特売発注予定データ」
を日清食品へ事前共有した点です。
物流現場の人なら分かります。
実は特売ほど物流を乱すものはありません。
消費者から見れば、
ただの安売りです。
しかし物流側から見ると、
突然発生する需要爆発です。
- 一時的な大量出荷
- 在庫調整
- 増便対応
- 人員確保
が必要になります。
ところが従来は、
販売情報と物流情報が分断されていました。
だから物流は、
毎回後追いで対応していたのです。
■ 本当に凄いのは「物流の可視化」ではない
最近の物流DXは、
可視化ばかりが注目されています。
しかし可視化だけでは何も変わりません。
見えるだけだからです。
今回の事例が凄いのは、
見えた情報を使って、
商流そのものを動かしたことです。
つまり、
物流が営業を変えた。
物流が販売を変えた。
物流が需給を変えた。
ここに本質があります。
■ 実はこれはフィジカルインターネットの入口
国は現在、
フィジカルインターネット構想を推進しています。
多くの人は、
共同配送や共同倉庫を想像します。
しかし本当のスタート地点は違います。
それは、
データ共有です。
どれだけ共同配送したくても、
需要予測が共有されていなければ成立しません。
どれだけ倉庫を共同利用しても、
発注情報が見えなければ最適化できません。
今回の取り組みは、
フィジカルインターネットの実証実験に極めて近い。
つまり、
荷物を共有する前に、
情報を共有し始めたのです。
■ 意外な本質は「在庫を減らす話ではない」
多くの記事は、
トラック30%削減に注目しています。
しかし私は別の部分に注目しています。
それは、
日清食品側で
月間約200時間の在庫調整業務削減
が実現した点です。
これは単なる効率化ではありません。
今まで人がやっていた
- 電話
- メール
- 調整
- 確認
が不要になったということです。
つまり、
物流改革が人手不足対策になっている。
実は日本物流最大の問題は、
トラック不足ではなく、
調整業務の爆発なのです。
■ 物流業界が向かう未来
今回の協業を見ていると、
物流業界は大きな転換点に入っています。
これまでの物流改善は、
運び方の改善でした。
しかしこれからは違います。
改善対象は、
- 発注
- 販促
- 生産計画
- 在庫計画
へ広がります。
つまり、
物流部門が物流だけを考える時代は終わります。
■ 結論|物流は「運ぶ部門」から「需給を設計する部門」へ
三菱食品と日清食品の取り組みは、
AI活用事例として語られるでしょう。
しかし本質はAIではありません。
本当に変わり始めているのは、
企業の意思決定構造です。
これまで物流は、
営業が売った後に考える存在でした。
しかし今後は違います。
物流能力を無視した販売計画は成立しない。
物流能力を無視した特売も成立しない。
物流能力を無視した需給調整も成立しない。
つまり、
物流は「運ぶ機能」から、
「需給を設計する機能」
へ変わり始めています。
トラック30%削減という数字以上に重要なのは、
今回の協業が、
物流をサプライチェーンの末端から、
サプライチェーン全体を設計する中枢へ押し上げたことなのかもしれません。
■ 物流軍師の視点
私は以前から、
物流問題の本質は
「トラック不足」
ではなく、
「情報不足」
だと考えています。
荷物は急に増えません。
増えたように見えるだけです。
実際には、
情報が届いていなかっただけ。
今回の三菱食品と日清食品の協業は、
その事実を証明した事例とも言えます。
物流改革とは、
倉庫を建てることでも、
トラックを増やすことでもありません。
まず必要なのは、
「誰が何を知っていて、誰が知らないのか」
を無くすことなのです。