物流業界入門

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【全ト協会長が語った「適正原価」は物流を救うのか】── 軽油問題より重要な、“物流の値段”を決める戦いが始まった

物流業界では今、

燃料高騰、 ドライバー不足、 2024年問題、

こうしたテーマばかりが注目されています。

しかし6月4日の全日本トラック協会理事会で、

寺岡洋一会長が最も強調したのは別の話でした。

それが、

「適正原価」

です。

会長はこれを

「業界の将来を左右する最も大切な部分」

と表現しました。

私はこの発言に大きな意味を感じています。

なぜなら、

物流業界が長年抱えてきた問題の多くは、

人手不足でも、 燃料高でもなく、

実は

「安すぎる運賃」

から始まっているからです。


■ 軽油カルテル問題で見えた異常な構造

今回の理事会で寺岡会長は、

軽油供給問題にも言及しました。

中東情勢悪化による供給不安。

さらに石油販売会社へのカルテル捜査。

トラック業界から見れば、

極めて重大な問題です。

全ト協試算では、

軽油価格が1円上昇すると、

業界全体で年間約167億円の負担増になるとされています。

当然、

怒りが出るのも理解できます。

実際、

もし不当な価格形成が行われていたのであれば、

運送会社は長年にわたり余計なコストを負担していたことになります。


■ しかし本当に問題なのは燃料なのか

ただ私は、

燃料問題以上に気になることがあります。

それは、

なぜ業界がこれほど燃料価格に振り回されるのか

です。

答えは単純です。

利益率が低すぎるからです。

仮に運賃が適正に収受できていれば、

軽油価格が多少変動しても吸収できます。

しかし現実には、

燃料価格が少し動いただけで経営が揺らぐ。

これは、

燃料価格が問題なのではなく、

利益構造が脆弱すぎるのです。


■ 本丸は「適正原価」

だからこそ、

寺岡会長が適正原価を

「本丸中の本丸」

と表現したのは正しいと思います。

物流業界は長年、

値下げ競争によって疲弊してきました。

その結果、

現場では、

  • 荷待ち
  • 長時間労働
  • 多重下請け
  • 無理な運行

が当たり前になった。

つまり、

安い運賃を成立させるために、

人間の時間が使われ続けてきたのです。


■ 適正原価は革命になり得る

もし適正原価が本当に機能するなら、

物流業界は大きく変わります。

例えば、

  • 人件費
  • 燃料費
  • 車両費
  • 保険料
  • 法令対応費

こうしたコストが正しく評価される。

すると、

安さだけで仕事を取る会社が減る。

無理な運行も減る。

結果として、

業界全体の持続可能性は高まります。

ここは大いに評価したい部分です。


■ しかし私は楽観していない

一方で、

私はこの議論に危うさも感じています。

なぜなら、

適正原価を決めることと、

適正原価で払われることは全く別だからです。

ここを混同すると危険です。

例えば、

国が

「この運賃が適正です」

と示したとしても、

荷主が払わなければ意味がありません。

さらに、

元請が吸収してしまえば意味がありません。

さらに、

下請けまで届かなければ意味がありません。


■ 物流業界の本当の病巣

私は以前から言っています。

物流業界最大の問題は、

人手不足ではありません。

構造不足です。

例えば最近だけでも、

  • 日本郵便の点呼不正問題
  • SGJの通関許可取消
  • 各社で続く労務違反

が発生しています。

これらは単なるコンプライアンス問題ではありません。

共通しているのは、

「処理能力を超えた需要」

です。

運べと言われる。

納期は守れと言われる。

しかし人も設備も足りない。

その結果、

法令順守が後回しになる。

これは現場のモラルではなく、

構造の問題です。


■ 適正原価が試されるのはこれから

本当に重要なのは、

適正原価が導入されることではありません。

適正原価によって、

物流能力以上の需要を抑制できるかです。

もし適正原価が、

「高いけど結局無理をする」

だけになれば失敗です。

逆に、

「その仕事はこの価格では受けられません」

と業界全体が言えるようになれば、

初めて意味を持ちます。


■ 結論|問われているのは価格ではなく覚悟

寺岡会長の発言は、

非常に重要なメッセージだったと思います。

軽油問題も重要です。

交付金問題も重要です。

しかし、

業界の未来を決めるのは、

やはり適正原価でしょう。

ただし、

適正原価は魔法ではありません。

本当に必要なのは、

運賃を決めることではなく、

「無理な仕事を断れる物流」

を作ることです。

物流業界はこれまで、

安さと我慢で成り立ってきました。

しかし2024年問題以降、

そのモデルは限界を迎えています。

適正原価とは、

単なる料金表ではありません。

それは、

物流を犠牲にして社会を回す時代を終わらせるための、

最後の構造改革なのかもしれません。


■ 物流軍師の視点

私は寺岡会長の問題意識には賛成です。

適正原価は必要です。

しかし、

適正原価より先に必要なのは、

適正需要です。

運べる量以上を売る。

処理能力以上を押し込む。

そして現場に我慢させる。

今の物流問題の多くはそこから始まっています。

適正原価が本当に機能するかどうか。

それは2年後の制度施行ではなく、

荷主・元請・運送会社が

「無理な物流を断る覚悟」

を持てるかどうかにかかっていると思います。