物流業界入門

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【多業種物流儀⑪】出版物流――本はなぜ全国の書店に並ぶのか。「返品前提」で成立する特殊物流の正体

本屋に行けば、新刊が全国ほぼ同じタイミングで並んでいます。

東京で発売された本が、 北海道にも、 九州にも、 離島にも届く。

私たちはそれを当たり前のように受け取っています。

しかし物流の視点で見ると、出版物流は極めて特殊な世界です。

なぜなら出版物流は、

「売れる前に運ぶ」

ことを前提としているからです。

一般的な物流は、

受注

出荷

配送

という流れです。

しかし出版物流は、

印刷 ↓ 全国へ配本 ↓ 売れ残り回収

という構造になっています。

今回は、あまり知られていない出版物流の仕組みを物流目線で整理してみたいと思います。


■ 出版物流とは何か

出版物流とは、

  • 書籍
  • 雑誌
  • コミック
  • ムック本

などを出版社から全国へ届ける物流システムです。

しかし単純な輸送ではありません。

出版業界には独特の商流があります。

それが、

「出版社 → 取次 → 書店」

という流れです。


■ 出版物流を支える「取次」という存在

出版物流を語る上で欠かせないのが取次です。

代表的なのは、

  • トーハン
  • 日本出版販売

です。

一般の物流で例えるなら、

取次は巨大な物流センター兼卸売業者です。

出版社から本を集め、

全国の書店へ配送します。

つまり出版物流の中心には、

運送会社ではなく取次が存在しているのです。


■ 出版物流最大の特徴

「委託販売制度」

出版物流最大の特徴は、

委託販売制度です。

普通の商品は、

書店が仕入れた時点で購入します。

しかし本は違います。

売れなかった場合、

出版社へ返品できます。

つまり、

返品前提で流通しているのです。


■ なぜ返品できるのか

理由は単純です。

文化的価値を守るためです。

もし返品制度がなければ、

書店は売れる本しか置かなくなります。

すると、

専門書 学術書 地方出版物

などが流通しなくなります。

出版業界は、

「多様な知識へのアクセス」

を維持するため、

返品制度を維持してきました。


■ 出版物流は「往復物流」である

一般物流では、

荷物を届けたら終わりです。

しかし出版物流は違います。

配送した本が、

再び戻ってきます。

つまり、

配送物流

回収物流

がセットになっています。

これを物流視点で見ると、

非常にコストが高い仕組みです。


■ 出版物流の隠れた主役

返品物流

実は出版物流の難しさは、

届けることではありません。

回収することです。

売れ残った本は、

全国の書店から回収されます。

そして、

  • 再配本
  • 在庫保管
  • 断裁処分

などが行われます。

つまり出版物流は、

販売物流よりも返品物流の管理が重要なのです。


■ 雑誌物流はさらに特殊

出版物流の中でも、

雑誌はさらに難しい存在です。

なぜなら、

鮮度が命だからです。

例えば週刊誌なら、

発売日に店頭へ並ばなければ価値が激減します。

食品物流ほどではありませんが、

出版物流にも賞味期限が存在します。

そのため雑誌物流では、

時間指定された配送ネットワークが構築されています。


■ 出版物流と共同配送

実は出版物流は、

日本でも早い段階から共同配送を実現していました。

書店ごとに、

出版社が個別配送するわけではありません。

複数出版社の商品をまとめて配送します。

つまり出版物流は、

業界全体で物流を共有する仕組みなのです。

現在物流業界で議論されている、

  • フィジカルインターネット
  • 共同配送
  • 標準化

の考え方に近い部分があります。


■ 出版物流と2024年問題

出版物流も2024年問題の影響を受けています。

特に課題となるのは、

  • 地方配送
  • 夜間配送
  • 少量多頻度配送

です。

これまで当たり前だった、

「発売日に全国同時展開」

を維持することが難しくなりつつあります。

物流リソースは無限ではありません。

出版業界も、

輸送効率向上が求められています。


■ 電子書籍は出版物流を消滅させるのか

近年、

電子書籍市場は急速に拡大しています。

電子書籍には、

  • 在庫がない
  • 輸送が不要
  • 返品がない

という特徴があります。

物流だけ見れば理想的です。

しかし紙の本には、

  • 店頭での偶然の出会い
  • 所有価値
  • 閲覧性
  • 保存性

があります。

そのため出版物流がすぐになくなることはありません。

今後は、

紙と電子の共存が進むと考えられます。


■ 書店減少が意味するもの

近年、

全国で書店数は減少しています。

これは単なる小売業の問題ではありません。

物流視点では、

配送先の減少を意味します。

一方で、

配送距離は長くなる可能性があります。

つまり、

物流効率が上がる面と、

地域の知識インフラが失われる面が同時に存在するのです。


■ 出版物流の本質は「知識のインフラ」

物流業界では、

食品物流は命を運ぶ物流と言われます。

では出版物流は何を運んでいるのでしょうか。

それは、

知識です。

本そのものではありません。

情報であり、 文化であり、 教育機会です。

だからこそ出版物流は、

効率だけでは測れない特殊性を持っています。


■ 構造考察

出版物流は「効率」と「文化」の間で揺れている

物流の世界では、

効率化が正義になりやすい傾向があります。

積載率を上げる。

配送回数を減らす。

拠点を集約する。

それ自体は正しい考え方です。

しかし出版物流は、

効率だけでは成立しません。

売れないかもしれない本を運ぶ。

地方の小さな書店にも届ける。

返品も受け入れる。

物流だけを見れば非効率です。

それでも続いてきた理由は、

社会が知識へのアクセスを重視してきたからです。


■ まとめ

出版物流は、

本を運ぶ物流ではありません。

知識を届ける物流です。

その仕組みは、

  • 取次制度
  • 委託販売制度
  • 返品物流
  • 全国配送網

によって支えられています。

一方で、

2024年問題や書店減少によって、

従来の仕組みは大きな転換点を迎えています。

物流の世界では効率化が重要です。

しかし出版物流を見ていると、

物流とは単にモノを運ぶ行為ではないことがわかります。

何を社会へ届けるのか。

どこまで届け続けるのか。

出版物流とは、

物流が持つ社会的役割そのものを考えさせる業種なのかもしれません。