物流業界入門

物流業界の基礎から最新トレンドまで、現場経験を活かしてわかりやすく解説!

【「賃上げ5%達成」の違和感】──なぜ物流現場の多くは賃上げを実感できないのか

最近よく聞くようになりました。

「春闘で5%超の賃上げ達成」

政府も経済界も、

「賃上げの流れが定着した」

と評価しています。

実際に連合の2026年春闘第6回集計では、平均賃上げ率は5.02%となり、3年連続で5%台を維持しています。中小組合でも4.70%まで上昇しています。 しかし一方で、

多くの人はこう感じています。

「いや、全然上がった実感がない」

それも当然です。

なぜなら、

日本全体で起きているのは

「賃上げ」

ではなく、

「賃上げ格差の拡大」

だからです。

そして物流業界は、

その矛盾が最も見えやすい業界のひとつです。


■ まず整理したい「5%賃上げ」の正体

ニュースで報じられる5%は、

主に春闘参加企業の数字です。

経団連の大手企業集計では賃上げ率5.46%、金額では過去最高水準となっています。

しかし日本企業の大半は中小企業です。

日本商工会議所の調査では、

中小企業全体の賃上げ率は4.03%。

従業員20人以下では3.54%でした。

つまり、

テレビで見える景色と、

現場で起きている景色は違います。


■ 物流業界はさらに事情が違う

物流業界の場合、

単純な賃上げ競争ができません。

理由は明確です。

利益率が低いからです。


製造業なら、

ヒット商品が出れば利益が増える。

IT企業なら、

人員を増やさず売上を伸ばせる。

しかし物流は違います。

基本的には、

運んだ量 × 運賃

でしか売上が増えません。


しかも近年は、

  • 軽油価格上昇
  • 車両価格上昇
  • 整備費上昇
  • 保険料上昇
  • 人件費上昇

が同時進行しています。

つまり、

利益より先にコストが増える構造です。


■ ドライバー不足なのに給料が上がらない理由

よく言われます。

「人手不足なら給料は上がるはず」

確かに理論上はそうです。

しかし物流には特殊事情があります。


荷主は物流費をコストとして見ます。

そのため、

運送会社が賃上げしたくても、

運賃転嫁できなければ原資がありません。


つまり、

ドライバー不足なのに、

賃上げ原資が作れない。

この矛盾が起きます。


2024年問題以降、

適正運賃の議論は進みました。

しかし現場では今も、

  • 荷待ち
  • 長時間拘束
  • 多重下請け

が完全には解消されていません。

その結果、

人件費に回るはずだった利益が消えていきます。


■ 実は賃上げできている会社もある

一方で、

物流業界全体が苦しいわけでもありません。


例えば、

  • 大手宅配
  • 元請物流企業
  • 3PL事業者
  • 高付加価値物流

などは比較的賃上げが進んでいます。


なぜか。

利益率が違うからです。


つまり、

物流業界で起きているのは、

人手不足ではなく

利益を生み出せる物流と

生み出せない物流の分岐

です。


■ 本当の問題は「賃金」ではない

ここで重要なのは、

賃上げ率そのものではありません。


本当に見るべきは、

生産性

です。


例えば、

売上100億円で利益1億円の会社。

ここで5%賃上げすると、

簡単に利益が吹き飛びます。


一方、

DXや自動化で生産性を高め、

利益率を改善した会社なら、

継続的な賃上げが可能です。


つまり、

賃上げは結果であって原因ではない。


原因は、

どれだけ付加価値を生み出せるか

です。


■ 物流業界が向き合うべき現実

私は物流業界を見ていて、

今後もっと厳しくなると思っています。


人口減少。

労働力不足。

最低賃金上昇。

社会保険負担増。

燃料高。


これらは全て、

物流企業のコストを押し上げます。


しかし荷物量は、

人口減少によって長期的には減少していく。


つまり、

従来型の

「安くたくさん運ぶ」

だけでは成立しなくなります。


■ 今後必要なのは「賃上げ」ではなく「構造改革」

物流業界で必要なのは、

賃上げ要求だけではありません。


本当に必要なのは、

  • 荷待ち削減
  • バース予約
  • 積載率向上
  • 共同配送
  • モーダルシフト
  • DX活用
  • 適正運賃収受

です。


つまり、

物流そのものの生産性向上です。


利益が増えれば、

賃金は後からついてきます。

しかし、

利益がないまま賃金だけ上げれば、

会社が先に潰れます。


■ 結論|賃上げを実感できない理由は「格差」ではなく「構造」にある

連合の5.02%という数字は事実です。 しかし、

その数字だけで

日本全体の実態は語れません。


物流業界の現場で起きているのは、

賃上げできる企業

賃上げしたくてもできない企業

の二極化です。


だから本当に議論すべきなのは、

「5%上がったかどうか」ではありません。


なぜ利益が残らないのか

なぜ運賃に転嫁できないのか

なぜ人手不足なのに待遇改善できないのか

です。


賃上げ問題の本質は、

給与の話ではありません。

物流を含む日本産業全体の

「生産性と付加価値の再設計」

そのものなのです。