
※本記事は農業協同組合新聞(JAcom)の報道をもとに考察しています。
https://www.jacom.or.jp/articles/LjdzxVkXv8bkJ5zeLsCfN
有機農業の課題は、生産ではありません。
物流です。
2026年6月。
有機農産物流通を手掛ける坂ノ途中は、自治体やNPO、生産者グループと連携し、地域内流通網の構築を進めていることを公表しました。
共同物流便の運行。
受発注システム「farmO」の活用。
学校給食との需給調整。
一見すると農業支援の話に見えます。
しかし物流の視点から見ると、これはもっと本質的な話です。
有機農業が広がらない理由は、
「作れないから」
ではありません。
運べないからです。
■ 有機農業最大の壁は「物流」である
農林水産省は「みどりの食料システム戦略」の中で、
2050年までに有機農業面積を100万haまで拡大する目標を掲げています。
しかし現実は簡単ではありません。
なぜなら、有機農業の多くは小規模だからです。
一般的な流通は、
- JA
- 卸売市場
- 量販店
という大量流通を前提に設計されています。
しかし有機農家は違います。
- 生産量が少ない
- 品目が多い
- 収穫量が不安定
という特徴があります。
つまり、
大量生産型物流との相性が悪い。
ここに根本的な課題があります。
■ 農家は物流会社ではない
そこで起きるのが、
「農家による自家配送」
です。
実際、多くの小規模農家は自ら軽トラックやバンを運転し、
- 飲食店
- 直売所
- 小売店
へ納品しています。
しかし物流として見ると極めて非効率です。
午前中に収穫し、
午後は配達。
往復数時間を配送に費やす。
その間、生産活動は止まります。
つまり農家は、
生産者でありながら配送事業者も兼ねている状態です。
■ 物流コスト上昇が直撃する構造
さらに現在は、
- ガソリン価格上昇
- 車両維持費上昇
- 人手不足
- ドライバー不足
が進行しています。
大量出荷を行う大規模農家ならまだしも、
小規模有機農家にとっては大きな負担です。
つまり、
有機農業の課題は農業技術ではなく、
物流コストそのものになりつつあるのです。
■ 坂ノ途中がやっているのは「農業版共同配送」
そこで坂ノ途中が進めているのが、
京都オーガニックアクション(KOA)との共同物流です。
物流業界で言うところの、
まさに共同配送です。
複数農家の荷物を集約する。
配送を一本化する。
受注情報を共有する。
配送ルートを最適化する。
これによって、
農家は「運ぶ仕事」から解放されます。
そして配送効率も向上します。
実は物流業界で進む共同配送と全く同じ思想なのです。
■ 本当の主役はトラックではない
今回の取り組みで本当に重要なのは、
トラックではありません。
「farmO」です。
物流は、
まず情報を集約しなければ効率化できません。
- 誰が
- 何を
- どれだけ
- いつ出荷するのか
この情報が共有されて初めて、
共同配送は成立します。
物流業界でも、
共同配送が難しい理由の多くは、
車両不足ではなく情報不足です。
farmOは、
農業版の物流情報基盤とも言える存在です。
■ 学校給食で起きていること
兵庫県養父市の事例も興味深いです。
学校給食への地場野菜導入は、
長年理想として語られてきました。
しかし実際には非常に難しい。
理由はシンプルです。
供給が読めないからです。
学校給食は欠品できません。
必要数量を必ず確保する必要があります。
一方で農業は天候に左右されます。
そこでfarmOを活用し、
生産者の出荷可能量を可視化することで、
需給調整を実現しています。
つまりこれは、
農業を物流的に管理しているということです。
■ 類農園との共同集荷が示す未来
奈良県宇陀市の類農園との共同チャーター便も興味深い取り組みです。
配送ネットワークが重複するエリアを共有し、
共同集荷を行う。
これは物流業界で言う
- 積載率向上
- 空車削減
- 共同輸送
そのものです。
結果として、
物流費削減だけでなく、
燃料消費削減やCO₂排出削減にもつながっています。
■ フィジカルインターネットとの共通点
実は坂ノ途中の取り組みは、
物流業界が将来像として掲げる
「フィジカルインターネット」
と非常に近い思想を持っています。
荷物を共有する。
情報を共有する。
配送を共有する。
拠点を共有する。
個社最適から全体最適へ。
物流業界で起きている変化が、
農業分野でも始まっているのです。
■ 本質は農業ではなく物流である
このニュースは、
有機農業支援のニュースに見えます。
しかし物流の視点で見ると、
まったく違う景色が見えてきます。
どれだけ良い野菜でも、
運べなければ商品になりません。
どれだけ環境に優しい農法でも、
流通できなければ社会に届きません。
つまり、
有機農業のボトルネックは畑ではなく物流だったのです。
■ なぜ今この動きが重要なのか
2024年問題以降、
物流業界は
「どう運ぶか」
から
「何を共同化するか」
の時代へ入りました。
共同配送。
共同輸送。
共同保管。
共同受発注。
坂ノ途中の取り組みは、
農業分野でそれを先行して実践している事例とも言えます。
■ おわりに
物流は大量生産を支えるためだけの仕組みではありません。
これからは、
小規模で分散した生産者を社会につなぐインフラとしての価値が高まっていきます。
有機農業の未来を決めるのは、
畑だけではありません。
その野菜を、
誰が、
どう集め、
どう運び、
どう届けるのか。
坂ノ途中が挑んでいるのは、
単なる共同配送ではありません。
「小規模生産者でも市場につながれる物流インフラの再設計」
なのです。
そしてその思想は、
これから物流業界全体が向かう未来とも重なっています。