最近あまり注目されていませんが、物流業界にとって非常に大きな制度変更が始まります。
EU(欧州連合)は2026年7月1日から、150ユーロ未満の小口輸入貨物に対する免税制度を廃止します。
これまで越境ECでは、
- 中国から直接発送
- 少額配送
- 小口多頻度
というモデルが急拡大してきました。
しかし今回の制度変更によって、その前提が大きく揺らぎ始めています。
多くの報道は、
「関税が上がる」
という話で終わっています。
しかし物流の視点で見ると、もっと大きな変化が起きています。
■ 本当に終わるのは何か
今回の制度変更で課税対象となるのは150ユーロ未満の小口輸入品です。
EUは2026年7月から暫定措置として、商品分類ごとに3ユーロの関税を課す方針を決定しています。
これまで中国系EC事業者は、
「注文が入ってから発送する」
というモデルで急成長してきました。
代表例が、
- Temu
- SHEIN
- AliExpress
などです。
彼らは欧州に在庫を持たず、中国から直接送ることでコストを削減していました。
つまり、
物流そのものを倉庫代わりに使っていた
とも言えます。
■ 越境ECの正体は「移動在庫」
物流業界では在庫を持つことはコストです。
- 倉庫費用
- 人件費
- 保険
- 資金拘束
すべてが発生します。
そこで越境ECは別の発想を取りました。
商品を倉庫に置く代わりに、
輸送途中に置いてしまう。
中国から発送し、 国際物流網を通過し、 顧客宅へ届ける。
この移動時間そのものを在庫期間として活用したのです。
■ EUが狙っているもの
表向きの理由は税収です。
しかし実際にはそれだけではありません。
EU側は、
- 不公平な競争環境
- 税関負荷増大
- 商品安全性
- 不正申告
などを問題視していました。
2024年だけでEUへ流入した150ユーロ未満の小口貨物は46億個に達しています。
もはや税関が処理能力の限界に近づいている状況です。
■ 日本にも無関係ではない
多くの人は、
「欧州の話だから関係ない」
と思うかもしれません。
しかし物流は必ず連鎖します。
① 航空貨物市場への影響
現在の国際航空貨物は、
越境EC貨物が大きな割合を占めています。
もし欧州向け小口貨物が減れば、
航空スペース需要が変わります。
結果として日本発着貨物の運賃にも影響する可能性があります。
② 日本企業の越境EC戦略
日本企業も欧州向け販売を行っています。
これまでの
「売れたら送る」
から
「現地在庫を持つ」
への転換が必要になるかもしれません。
つまり物流戦略ではなく、
サプライチェーン設計の問題になります。
③ 倉庫需要が増える可能性
最も面白いのはここです。
小口直送モデルが弱まるほど、
欧州域内在庫の価値が高まります。
すると、
- 欧州倉庫
- フルフィルメントセンター
- 現地配送網
の重要性が上がります。
物流企業にとっては新たなビジネスチャンスでもあります。
■ アメリカも同じ方向へ動いている
実はEUだけではありません。
アメリカでも小口輸入免税制度の見直しが進んでいます。
つまり世界全体で、
「少額だから無税」
という考え方が崩れ始めています。
■ 私の考察
今回のニュースを見て、
多くの人は
「関税が上がる」
と理解します。
しかし物流の本質はそこではありません。
これは、
物流が在庫を代替する時代の終わり
を意味しています。
これまで越境ECは、
中国の工場から直接世界へ送れば成立しました。
しかし今後は、
- どこに在庫を持つか
- どこに物流拠点を置くか
- どの市場に事前配置するか
という、
昔ながらのサプライチェーン設計能力が再び重要になります。
つまり今回の制度変更は、
単なる関税改正ではありません。
世界が「配送競争」から「在庫配置競争」へ戻り始めたシグナルなのです。