物流業界でISO9001やISO9000の話をすると、
「書類ばかり増える」
「監査のための監査になっている」
「認証を維持するための儀式だ」
そんな声をよく耳にします。
確かに現場を見ると、
監査前だけ慌てて記録を整え、
誰も読まない手順書が棚に並び、
改善より認証維持が目的になっている企業もあります。
だから、
「ISOは形骸化している」
と言われるのでしょう。
しかし私は少し違う見方をしています。
形骸化しているのはISOではありません。
運用する側です。
むしろ物流業界こそ、ISOの思想を最も必要としている業界なのではないかと思っています。
なぜなら物流業界最大の課題は、
人手不足でも、
2024年問題でも、
DXでもなく、
属人化だからです。
■ ISO9000とは品質管理の規格ではない
多くの人はISOを
「品質管理の仕組み」
だと思っています。
もちろん間違いではありません。
しかし私はそれだけでは不十分だと思っています。
ISO9000シリーズが本当に管理しようとしているものは、
品質そのものではありません。
品質を安定して生み出す仕組みです。
たまたま上手くいく。
優秀な人がいるから回る。
ベテランが頑張るから成立する。
これでは品質は維持できません。
必要なのは、
誰がやっても一定の結果が出る状態です。
つまり再現性です。
ISOとは、
再現性を管理する思想なのです。
■ 物流業界は属人化で成り立っている
物流現場ではよく聞く言葉があります。
「あの人しか分からない」
「あの配車担当が休むと回らない」
「あのドライバーだから荷主対応できる」
「あの倉庫長の経験で何とかしている」
現場では当たり前です。
しかし経営の視点から見ると、
これは極めて危険な状態です。
人が辞める。
人が休む。
人が高齢化する。
その瞬間に業務が止まるからです。
物流業界は長年、
個人の能力で問題を解決してきました。
しかしその成功体験が、
逆に組織を弱くしている側面もあります。
属人化とは、
組織が知識を蓄積できていない状態です。
ISOが求めているのは、
個人の能力を否定することではありません。
個人の能力を組織の資産へ変換することです。
■ 実は物流DXと思想が同じ
最近は物流DXが盛んに語られています。
しかし多くの企業は、
システム導入をDXだと思っています。
私はそうは思いません。
DXの本質は、
業務を再現可能にすることです。
誰が。
何を。
どの順番で。
どの基準で。
どのように判断しているのか。
それを見える化する。
そして共有する。
実はISOとDXは驚くほど似ています。
どちらも目指しているのは、
業務の標準化です。
属人化からの脱却です。
つまりDXは、
ISOが紙で実現しようとした世界を、
デジタルで実現しようとしているだけなのです。
■ なぜ物流2024年問題が起きたのか
私は2024年問題も、
本質的には属人化の問題だと思っています。
長時間労働で補う。
ベテランの経験で補う。
現場の根性で補う。
協力会社に頼る。
こうした運用で回っていたものが、
法規制によって限界を迎えた。
つまり物流業界は、
仕組みで回していたのではなく、
人で回していたのです。
だから制度が変わった瞬間に苦しくなった。
ISOの思想は以前から、
法令順守
リスク管理
継続改善
標準化
を求めていました。
もし物流業界全体がその思想を徹底できていたら、
2024年問題への耐性はもっと高かったかもしれません。
■ ISOが嫌われる理由
ではなぜISOは嫌われるのでしょうか。
理由は簡単です。
目的と手段が逆転するからです。
本来は、
再現性を高める
↓
標準化する
↓
記録する
↓
改善する
という順番です。
しかし現実には、
監査のために記録する。
認証維持のために書類を作る。
こうなりがちです。
だから現場は疲弊します。
問題はISOではありません。
ISOを認証制度としてしか見なくなったことです。
■ ISOは経営のOSである
物流業界では
「ISOなんて意味がない」
という声もあります。
しかし私は逆だと思っています。
意味がないのではありません。
理解されていないだけです。
荷待ち問題。
教育不足。
事故。
点呼不備。
コンプライアンス違反。
多重下請け問題。
これらは全て、
再現性が不足している状態とも言えます。
つまり、
組織として管理できていない状態です。
ISOが向き合っているのは、
まさにそこです。
私はISOを認証制度だとは思っていません。
経営のOSです。
現場の経験を組織知へ変換し、
改善が回り続ける仕組みを作るための思想です。
■ 私の考察
物流業界は今、
人に依存する時代から、
仕組みに依存する時代へ移行しています。
AIもそうです。
DXもそうです。
自動化もそうです。
しかしその土台になるのは、
再現性です。
再現できない業務は、
デジタル化もできません。
自動化もできません。
改善もできません。
物流業界ではよく、
「人が足りない」
と言われます。
しかし本当に足りないのは人なのでしょうか。
私はそうは思いません。
足りないのは、
人が持っている経験を組織の資産へ変換する仕組みです。
優秀な人材は存在します。
優秀なドライバーもいます。
優秀な配車担当もいます。
優秀な倉庫管理者もいます。
問題は、
その知識や判断が個人の中に閉じ込められたままになっていることです。
だから退職すると消える。
異動すると失われる。
休むと止まる。
物流業界が抱える多くの問題は、
実は人材不足ではなく、
知識の属人化による再現性不足なのかもしれません。
だから私は思います。
物流の未来を変えるのは、
最新技術だけではありません。
AIだけでもありません。
DXだけでもありません。
まず必要なのは、
現場の経験を組織の知恵へ変換する思想です。
属人化から標準化へ。
経験から再現性へ。
個人技から組織力へ。
その転換ができた企業から、
これからの物流を支えていくのだと思います。
そしてその思想を最も体系的に整理したものの一つが、
ISO9000なのだと思います。