物流業界入門

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【運輸総研が提言する「降ろし取り」とは?】港湾物流を変える全体最適の考え方

──港湾混雑の本当のボトルネックとは

運輸総合研究所は、コンテナターミナルにおける陸海の結節機能を効率化するための提言を公表しました。その中で大きな柱となっているのが、「降ろし取り(Dual Cycle)」の普及拡大です。

物流業界ではドライバー不足や2024年問題ばかりが注目されがちですが、実は港湾物流には「走っていない時間」が大きな課題として残されています。

今回の提言は、その"止まっている時間"を減らすための極めて現実的なアプローチと言えるでしょう。


「降ろし取り」とは?

「降ろし取り」とは、海上コンテナトレーラがコンテナターミナルへ1回入場した際に、搬入(降ろす)と搬出(取る)を連続して行う運用方法です。

通常は、

  • 輸出コンテナを搬入するためだけに入場
  • 空車で退出
  • 改めて輸入コンテナを引き取りに再入場

という流れになるケースが少なくありません。

一方、降ろし取りでは、

  1. 輸出コンテナを降ろす
  2. そのまま輸入コンテナを受け取る
  3. 一度の入場で作業を完了して退出

という流れになります。

つまり、同じゲート通過を2回から1回へ減らす考え方です。

これは海外では「Dual Cycle」と呼ばれ、ターミナルの生産性向上策として広く知られています。


なぜ今、「降ろし取り」が注目されるのか

コンテナターミナルでは、船の大型化や貨物量の増加により、ゲート前で長時間待機するトレーラが社会問題となっています。

ドライバーは走っている時間よりも、

  • ゲート待ち
  • コンテナ確認
  • 荷役待機

に多くの時間を費やすことがあります。

これはドライバーの労働時間を圧迫するだけでなく、

  • 車両回転率の低下
  • CO₂排出量の増加
  • 配車効率の悪化

にもつながります。

つまり、「待機時間」は物流全体の生産性を下げる見えにくいコストなのです。


運輸総研が示したシミュレーション

運輸総合研究所は、東京港中央防波堤Y2コンテナターミナルの実データを用いたミクロシミュレーションを実施しました。

その結果、

降ろし取り実施率を現状の約18%から28%へ引き上げることで、コンテナ1本当たりのターンタイム短縮効果が確認されたとしています。

重要なのは、新しい設備を造る話ではないという点です。

既存インフラを活用しながら、運用を改善することで効率を高めようという提言なのです。


本質は「設備不足」ではなく「情報不足」

ここで一段深く考えてみたいポイントがあります。

物流では混雑が起きると、

「ヤードを広げよう」

「ゲートを増やそう」

という議論になりがちです。

しかし、降ろし取りが示しているのは違います。

問題は設備だけではありません。

搬入と搬出を同時に成立させる情報が、事前に十分共有されていないことです。

輸出コンテナを持ってくる車両と、

輸入コンテナを引き取る車両。

この情報をタイミングよく結び付けられれば、一度の入場で仕事は終わります。

つまり、

物流のボトルネックは「モノ」ではなく「情報」にあるということです。


DXの本質はAIではない

最近は物流DXというと、

  • AI
  • 自動運転
  • 自動クレーン

ばかりが注目されます。

しかし今回の提言を見ると、本当に必要なのはもっと基本的なことです。

  • コンテナ情報
  • 船社情報
  • トレーラ配車
  • ターミナル予約
  • 荷主情報

これらをリアルタイムで共有できれば、

車両は自然に最適な動きを選択できるようになります。

AI以前に、情報がつながること。

これこそDXの原点ではないでしょうか。


「部分最適」から「全体最適」へ

物流業界では、それぞれが自社の効率化を追求してきました。

  • ターミナルはターミナルの効率
  • 運送会社は運送会社の効率
  • 荷主は荷主の効率
  • 船会社は船会社の効率

しかし、それぞれが部分最適を追求すると、

全体では待機時間が増え、車両回転率が下がるという逆転現象が起こります。

降ろし取りは、その部分最適を少し譲り合い、

港全体の生産性を高める発想と言えるでしょう。


物流改革は「新しい技術」だけでは進まない

今回の提言は、派手な技術革新ではありません。

ですが、

  • 車両の稼働率向上
  • ドライバーの拘束時間短縮
  • ターミナル混雑の緩和
  • CO₂排出削減

といった複数の効果が期待できる、極めて実務的な改善策です。

物流は巨大なシステムです。

その改善は、必ずしも大規模投資から始まるわけではありません。

一度の入場で「降ろす」と「取る」を完結させる。

このシンプルな発想の積み重ねこそが、日本の港湾物流の競争力を底上げする鍵になるのではないでしょうか。


まとめ

「降ろし取り」は、一見すると単なる作業手順の見直しに見えます。

しかし本質は、物流を"点"ではなく"流れ"として捉え直す発想にあります。

港湾物流の課題は、トラックやコンテナが不足していることではありません。

必要な情報が適切なタイミングで共有されず、各プレーヤーが個別最適で動いていることが、混雑や待機時間を生み出しています。

だからこそ、これからの物流改革で重要になるのは、新しい設備を増やすこと以上に、データと情報をつなぎ、全体最適を実現する仕組みづくりです。

「降ろし取り」は、その象徴的な取り組みであり、日本の港湾物流が次のステージへ進むための重要な第一歩と言えるでしょう。