物流業界入門

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【三井倉庫HDの通関料金25%値上げは序章に過ぎない】NXから始まった「物流価格正常化」が業界全体へ

三井倉庫ホールディングスは、2026年7月1日受託分から通関業務の各種料金を平均約25%引き上げると発表しました。

対象となるのは輸出入貨物の通関申告や保税関連申請などで、人件費の上昇やシステム投資、コンプライアンス対応などのコスト増加を背景に、安定したサービス提供を継続するための価格改定と説明しています。

一見すると一企業の値上げニュースですが、物流業界全体を俯瞰すると、この動きは非常に大きな意味を持っています。

今回の値上げは三井倉庫だけの話ではありません。

実は2026年に入り、通関業界全体で「価格正常化」の流れが一気に加速しています。


この流れを作ったのはNX(日本通運)

業界の転換点となったのは、NXグループ(日本通運)です。

日本通運は2026年1月受託分から通関料金を平均約25%引き上げました。

同社は、

  • 人件費の上昇
  • EPA(経済連携協定)の拡大による業務高度化
  • AEO制度対応
  • コンプライアンス強化
  • システム投資

などを理由に挙げています。

さらに注目すべきなのは、日本通運が

「1995年の料金水準が事実上30年間続いてきた」

ことを明確に説明した点です。

2017年の通関業法改正で料金上限は撤廃されていました。

しかし実際には旧料金が業界標準として残り続け、約30年間ほとんど価格改定が行われてきませんでした。

つまり今回の値上げは、「25%値上げ」ではなく、「30年間据え置かれていた価格の是正」と見る方が本質に近いと言えます。


三井倉庫だけではない 同業各社も追随

NXが先陣を切ったことで、業界全体の空気が大きく変わりました。

2026年に入り確認されている主な動きは、

  • 日本通運(NX):平均約25%(1月)
  • 上組:約20%
  • 丸紅ロジスティクス:約25%
  • 三菱倉庫:約25%
  • 富士物流:約25%
  • 伊勢湾海運:約25%
  • 三井倉庫HD:平均約25%(7月)

と、大手物流会社が相次いで料金改定へ踏み切っています。

偶然同じタイミングで値上げしたのではありません。

長年業界全体が抱えていた「価格を上げられない構造」がようやく崩れ始めたのです。


なぜ今、一斉に動き出したのか

物流業界には「価格を上げにくい文化」が長年存在していました。

荷主との長い取引関係を重視するあまり、

「このくらいはサービス」

「付き合いだから」

という考え方が当たり前になっていました。

特に通関業務は、

  • HSコード分類
  • EPA適用判断
  • 関税計算
  • 原産地確認
  • 法令確認
  • 税関折衝

など、高度な専門知識が必要にもかかわらず、その価値が十分価格へ反映されてきませんでした。

しかし現在は、

  • 最低賃金上昇
  • 通関士不足
  • DX投資
  • サイバーセキュリティ対策
  • 経済安全保障対応
  • AEO維持コスト

など、企業努力だけで吸収できる段階を超えています。

「安く高品質」は限界を迎えたと言えるでしょう。


政府も価格転嫁を後押ししている

今回の一連の動きを後押ししているのが政府方針です。

近年の総合物流施策大綱では、物流事業者が適正な価格転嫁を行える環境整備が盛り込まれています。

さらに、日本通関業連合会も荷主との不適正取引を報告できる仕組みを整備し、適正料金収受を後押ししています。

つまり今回の値上げは企業単独の判断ではなく、

業界・行政・制度が同じ方向を向き始めた結果

とも言えます。


物流の価値は「運ぶこと」だけではない

物流というとトラックや船ばかり注目されます。

しかし国際物流では、

  • 通関
  • 保税
  • フォワーディング
  • 倉庫
  • 港湾荷役
  • 国内配送

すべてが一つでも止まれば物流は機能しません。

その中でも通関は「国境を越える唯一の入口」です。

一件の申告ミスで貨物は止まり、多額の損失が発生することもあります。

だからこそ、通関士の知識や経験は物流インフラそのものと言っても過言ではありません。


考察後記

私は今回のニュースを見て、「物流価格の正常化」がいよいよ本格的に始まったと感じました。

これまで物流業界は、効率化や企業努力によってコスト上昇を吸収し続けてきました。

しかし、その結果として現場の負担だけが増え、人材不足や専門職離れという形で限界が表面化しています。

NXが業界最大手として価格改定に踏み切り、その後に三菱倉庫や三井倉庫、上組などが追随した流れを見ると、これは単発の値上げではなく「業界標準」の見直しが始まったと考えるべきでしょう。

荷主にとってはコスト増になりますが、その一方で物流会社は専門人材への投資やDX、セキュリティ対策を継続できるようになります。

物流は「安いこと」が価値なのではありません。

止めないこと、正確であること、安全であることが本当の価値です。

今回の通関料金改定は、その価値にようやく適正な価格が付けられ始めた象徴的な出来事ではないでしょうか。

通関料金の値上げは、単なるコスト増ではありません。専門性に正当な対価を支払うという価値観への転換です。この価値観が定着すれば、次に見直されるのはフォワーディング、倉庫、港湾荷役、配送など、これまで『サービス』として吸収されてきた業務の価格でしょう。つまり今回の改定は、物流業界全体の価格体系が再設計される第一歩なのです。