物流業界入門

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【「2億件の免税輸入」が問いかけるもの】──問題は税収ではない。物流と通関インフラは限界を迎えている

財務省は、課税価格1万円以下の少額輸入貨物(デミニミス制度)の輸入件数が、2025年に2億900万件へ達したことを関税・外国為替等審議会に報告しました。前年から約20%増加し、2010年代前半には2,000万件未満だった件数が、この10年余りで約10倍へと急拡大しています。政府は制度の見直しを進め、2028年4月から通信販売による少額輸入貨物について消費税免税を廃止する方針です。

このニュースは「免税制度の廃止」や「税収確保」といった論点で語られがちですが、本質はそこではありません。

私は物流の視点から、より大きな問題が浮かび上がっていると考えています。

それは、日本の通関インフラそのものが、小口越境EC時代に合わせた構造改革を迫られているということです。


2億件という数字が意味するもの

2億900万件。

この数字だけでは実感が湧きにくいかもしれません。

しかし、物流現場では極めて異常な数字です。

従来の輸入は、

  • コンテナ単位
  • パレット単位
  • ケース単位

で輸送されていました。

ところが越境ECでは、

「1個の商品=1件の輸入申告対象」

という世界になります。

つまり物流量が10倍になったわけではありません。

"通関件数"が爆発的に増えたのです。

税関は貨物そのものではなく、「件数」を処理します。

件数が10倍になれば、審査・リスク分析・システム処理・検査対象の抽出など、あらゆる業務負荷が急増します。


本当の問題は税収ではない

今回の制度見直しは、「海外通販だけが免税なのは不公平」という公平性の観点でも説明されています。

もちろんそれも重要です。

しかし物流の現場から見れば、より深刻なのは税関処理能力の限界です。

例えば1万件のコンテナ輸入より、

10万件の小口輸入の方が圧倒的に処理負荷は高くなります。

一件一件について、

  • 申告データ確認
  • HSコード確認
  • リスク判定
  • 禁制品チェック
  • 消費税計算
  • NACCS処理

が発生するからです。

物流会社も税関も、これまで経験したことのない処理量に直面しています。


越境ECが物流の常識を変えた

背景にあるのは、

  • SHEIN
  • Temu
  • AliExpress

など海外ECの急成長です。

従来であれば輸入業者がまとめて輸入していた商品を、

今では消費者一人ひとりへ海外から直接発送する時代になりました。

物流では

BtoB物流

から

BtoC越境物流

への転換です。

その結果、

物流量以上に

通関件数

だけが爆発的に増えています。


なぜ2028年まで猶予があるのか

「すぐ廃止すればいい」

そう思われるかもしれません。

しかし、それは現実的ではありません。

政府が2028年4月施行としている背景には、

制度変更だけではなく、

物流・通関システム全体の改修が必要だからです。

具体的には、

  • EC事業者
  • プラットフォーム
  • 通関業者
  • 税関
  • 配送会社
  • NACCS

すべてが対応しなければ制度は機能しません。

つまり今回の改正は税制改正ではなく、

サプライチェーン全体のシステム改修なのです。


通関業者の負担はさらに大きくなる

最近では三井倉庫ホールディングスが通関料金の値上げを発表しました。

背景には人件費だけではありません。

通関一件あたりの作業量が増え続けていることがあります。

今後、

免税制度が縮小されれば、

申告対象はさらに増えます。

つまり、

物流会社だけでなく、

通関業者も

DX化

自動化

AI審査

なしでは処理しきれない時代になります。


世界でも同じ方向へ進んでいる

日本だけではありません。

EUでは小口貨物への免税制度見直しが進み、データ提出要件や簡易課税制度の強化が予定されています。

米国でも中国・香港原産品を対象にデミニミス制度の見直しが進められ、各国が越境EC時代に対応する制度改革を進めています。

つまり、

日本だけが厳しくなるのではなく、

世界全体が「免税より適正課税」へ舵を切っているのです。


構造改革が必要なのは税関だけではない

ここで私が以前から感じていることがあります。

制度だけを変えても限界があります。

物流会社も、

通関業者も、

行政も、

そして利用する企業側も、

従来の業務プロセスやアプリケーションの構造改革が必要です。

今なお現場では、

人が画面を見て入力し、

確認し、

修正する工程が数多く残っています。

しかし年間2億件を超える輸入を、人手中心のオペレーションで処理し続けることには限界があります。

AIによるリスク判定、自動データ連携、プラットフォームとのAPI接続など、実務に即したデジタル化を前提に業務を再設計しなければ、制度改正だけでは現場の負担は減りません。

これから必要なのは、単なるDXではなく、

「物流・通関業務そのものの構造改革」です。


まとめ

今回のニュースは、「1万円以下の免税がなくなる」という制度変更だけでは語れません。

2025年の少額輸入貨物は2億900万件に達し、10年余りで約10倍へと急増しました。この数字が示しているのは、税収の問題ではなく、日本の通関・物流インフラが越境EC時代に合わせた転換点を迎えているという現実です。

物流の本質は、「モノを運ぶこと」だけではありません。

その前後には、通関、データ処理、税務、システム連携という見えない物流があります。

制度改正は、その見えない物流を見直す第一歩にすぎません。

これから問われるのは、「何を課税するか」ではなく、「年間2億件をどう処理する物流・通関システムを構築するか」です。

そこまで視野を広げて初めて、このニュースの本当の意味が見えてくるのではないでしょうか。