中小企業庁は、2026年3月の「価格交渉促進月間」のフォローアップ調査結果を公表しました。
全業種の価格転嫁率は54.2%となり、前回調査から0.7ポイント改善。価格交渉が行われた割合も90.7%と増加し、一見すると価格転嫁は着実に進んでいるように見えます。
しかし、その中で際立って厳しい状況に置かれているのがトラック運送業です。
発注企業から見た価格転嫁率は34.5%、受注企業側から見ても36.9%にとどまり、いずれも全32業種中で最下位という結果でした。
数字が示すのは「交渉できない業界」という現実
今回の調査では、価格交渉そのものは全体的に増えています。
つまり、
「話し合いの場がない」
という問題は少しずつ改善しています。
しかし運送業では、
交渉しても価格が上がらない。
ここに本質があります。
燃料価格は上昇し、
人件費も上昇し、
車両価格や整備費も高騰しています。
それでも運賃へ十分に反映できていない現実があります。
最大の原因は多重下請け構造
調査では運送事業者から、
- 元荷主と直接交渉できない
- 中間マージンが何重にも差し引かれる
- 値上げをお願いすると他社へ切り替えると言われる
という声が紹介されています。
これは昔から続く物流業界最大の課題です。
荷物を運ぶ会社が実際のサービス提供者であるにもかかわらず、
契約相手は一次請け、
その一次請けは二次請け、
さらにその上に元請け、
そして荷主。
この構造では、運賃を決める相手と実際に運ぶ会社が離れすぎています。
つまり、
物流コストを負担する人と、物流サービスを提供する人が直接向き合えていない。
これが価格転嫁を難しくしています。
「標準的運賃」があっても改善しない理由
国は標準的運賃制度を設け、
物流効率化法も施行され、
適正取引を促進しています。
制度だけを見ると環境は整いつつあります。
しかし現場では、
制度よりも商流の方が強い。
元請けが価格を抑えれば、
その影響はそのまま下請けへ伝わります。
制度はあっても、
実際の契約が変わらなければ現場は変わりません。
「物流2024年問題」はまだ終わっていない
2024年問題以降、
運賃が上がると言われ続けています。
確かに一部では改善しています。
しかし今回の調査結果を見る限り、
運送業全体としては十分な価格転嫁が実現できているとは言えません。
むしろ、
燃料費や人件費だけが増え、
利益率は依然として低いままという会社も少なくありません。
中東情勢も物流コストを押し上げる
今回の調査では、
中東情勢による影響を受けていると回答した企業は22%でした。
その中でもトラック運送業は31.2%と高い割合を占めています。
原油価格が上昇すれば、
最初に影響を受けるのは燃料を大量に消費する物流業界です。
軽油価格が上がれば、
1台あたり年間で数十万円から百万円単位の負担増になるケースもあります。
それでも価格転嫁率は約35%。
つまり、
コスト上昇の大半を運送会社自身が吸収している構図が続いているのです。
価格転嫁できない企業ほど疲弊していく
今回の調査では、
一次請けの価格転嫁率は55.2%。
一方で四次請け以上になると45.5%まで下がっています。
物流業界では、この傾向がさらに顕著です。
取引階層が深くなるほど利益は薄くなり、
最終的に現場で荷物を運ぶ会社ほど厳しい経営を強いられます。
この構造を放置したままでは、
ドライバー不足も、
運送会社の廃業も止まりません。
私が思うこと
今回の調査結果で重要なのは、
「価格交渉の場が増えた」
という点ではありません。
本当に見るべきなのは、
交渉しても価格が上がらない業界が存在していることです。
物流は社会インフラです。
しかし、そのインフラを支える運送会社がコストを吸収し続ける構造では持続可能とは言えません。
制度を作るだけでは解決しません。
多重下請け構造の見直し、元荷主との直接交渉機会の確保、そして物流を「安く使うもの」ではなく「社会を支えるサービス」として適正に評価する意識改革が必要です。
価格転嫁率34.5%という数字は、単なる統計ではありません。
それは、物流業界が今もなお構造的な課題を抱え続けていることを示す、一つの警鐘だと私は感じます。