経済産業省は2026年6月、「中小企業の稼ぐ力強化戦略」を公表しました。
戦略の中心に据えられた言葉は、
「数より質」
です。
全国約337万社ある中小企業について、これまでのように企業数を維持することを目的とするのではなく、一社一社が利益を生み出し、成長できる企業へ転換していくことを目指しています。
そのための施策として、
- M&A仲介人の国家資格制度創設
- AI導入支援
- 適正な価格転嫁の推進
- 防衛的賃上げから成長型賃上げへの転換
などが盛り込まれました。
一見すると中小企業政策のように見えます。
しかし私は、この戦略は物流業界に対するメッセージでもあると感じています。
■ 「数より質」は物流業界にも向けられている
日本には約6万を超える貨物自動車運送事業者があります。
その多くが中小企業です。
これまで物流政策では、
「運べる能力を維持すること」
が重視されてきました。
しかし現在は、
ドライバー不足、
燃料価格の高騰、
車両価格の上昇、
価格転嫁の遅れ、
後継者不足など、
構造的な課題が一気に表面化しています。
単純に会社の数を維持するだけでは、日本の物流は持続できなくなっています。
だからこそ、今回の「数より質」という考え方は、物流業界にも重なって見えるのです。
■ M&Aは「淘汰」ではなく物流機能を残すための手段
今回の戦略で最も注目されたのが、
M&A仲介人の国家資格制度です。
これまでM&A仲介には国家資格がなく、仲介品質にばらつきがあることが課題とされてきました。
制度化によって事業承継や企業再編を安心して進められる環境づくりを目指しています。
物流業界では、
「M&A=会社を売る」
という印象を持つ経営者も少なくありません。
しかし本来の目的は違います。
後継者がいなくても、
社員を守り、
荷主との取引を守り、
地域物流を維持する。
つまり、
物流機能そのものを未来へ残すこと
がM&Aの役割です。
これからの物流業界では、
廃業するか、
M&Aするか、
ではありません。
地域物流をどう維持するかという視点で考える時代になっていきます。
■ AI導入の目的は「人を減らすこと」ではない
戦略ではAI活用支援も柱になっています。
物流業界でも、
配車、
配送計画、
需要予測、
倉庫管理、
点呼、
問い合わせ対応など、
AI活用が急速に進んでいます。
しかし、
AI導入の目的は省人化だけではありません。
利益率を高め、
付加価値を生み、
社員へ還元できる企業になることです。
これまで物流DXは効率化という言葉で語られることが多くありました。
しかし今後は、
利益を生み出すDX
へ変わっていくでしょう。
■ 「防衛的賃上げ」は限界を迎えている
今回の戦略では、
人材流出を防ぐためだけの賃上げから、
利益成長を伴う賃上げへ転換することも掲げられました。
物流業界では、
価格転嫁が進まない中で賃上げだけが求められる場面も少なくありません。
利益を削りながら給与を上げても、
設備投資はできず、
人材育成も難しくなります。
結果として企業体力は弱っていきます。
賃上げは目的ではありません。
利益が生まれる経営構造を作ることが先です。
■ 私が注目したのは「政策の転換」
私は今回の戦略を読み、
政府の中小企業政策が大きく転換したと感じました。
これまでの政策は、
「企業を残す」
ことに重点が置かれていました。
しかし今回の戦略は、
「利益を生み出せる企業を増やす」
ことへ軸足が移っています。
これは物流業界でも同じです。
会社の数が多いことが物流力ではありません。
利益を確保し、
ドライバーへ還元し、
設備投資ができ、
災害時にも物流を止めない企業が増えることこそ、日本の物流力につながります。
■ 本当に見るべきは「淘汰」ではなく「再編」
「数より質」という言葉だけを見ると、
企業を減らす政策だと受け止める人もいるかもしれません。
しかし私はそうは思いません。
重要なのは、
会社をなくすことではなく、
物流機能をどう未来へ残すかです。
そのためには、
M&A、
事業承継、
共同配送、
グループ化、
地域連携など、
これまで以上に「再編」という考え方が重要になります。
物流2024年問題を経て、
物流業界は「運ぶ力」を競う時代から、
「持続可能な経営構造をつくる力」を競う時代
へ入りました。
経済産業省が掲げた「数より質」という言葉は、中小企業政策だけの話ではありません。
それは物流業界に対しても、
「会社の数ではなく、社会インフラを支え続けられる企業を育てる時代が始まった」
というメッセージなのではないでしょうか。