ドクタートラストが公表した2025年ストレスチェック分析によると、「運輸業・郵便業」は3年連続で総合健康リスクが最も高い業種となりました。
高ストレス者率でも「宿泊業・飲食サービス業」に次いで第2位となり、依然として極めて厳しい状況が続いています。
この結果を見て、
「ドライバーは大変だから」
「人手不足だから」
という感想だけで終わらせてはいけません。
私は今回の調査結果から見えた本質は、物流業界が抱える"構造疲労"にあると考えています。
データが示した事実
今回の調査では約60万人、約2,000団体のストレスチェック結果を分析しています。
運輸業・郵便業は
- 総合健康リスク 全国ワースト
- 高ストレス者率 全国2位
- 上司・同僚からのサポート不足 全国ワースト
- 前年よりさらに悪化
- 5年前より高ストレス者率が2.2ポイント悪化
という結果になりました。
つまり、
改善していないどころか悪化している。
ここが最も重要です。
なぜ物流だけ改善しないのか
物流業界ではここ数年、
- DX
- AI
- 自動化
- 2024年問題対策
- 標準的運賃
- 改正物流効率化法
数え切れないほど改革が行われています。
それでもストレスは減らない。
つまり、
制度だけでは解決できない問題が残っているということです。
ドライバーだけの問題ではない
「運輸業」という統計には
- トラックドライバー
- 倉庫スタッフ
- フォークリフトオペレーター
- 配車担当
- 運行管理者
- 事務スタッフ
- 郵便
- 宅配
すべて含まれます。
つまり、
物流全体が高ストレス業界になっているということです。
私が最も注目したのは「サポート不足」
今回の調査では
運輸業は
上司・同僚からのサポート不足が全国ワースト
となっています。
これは非常に興味深い結果です。
物流は
一人で仕事をする時間が非常に長い業界です。
ドライバーは運転席。
フォークリフトは倉庫内。
長距離は数百kmを一人。
夜勤も多い。
さらに営業所が分散しています。
つまり、
相談相手が近くにいない。
困っても助けてもらえない。
孤独が仕事そのものになっているのです。
人手不足は「原因」ではなく「結果」
よく
「人手不足だから大変」
と言われます。
しかし私は逆だと思います。
高ストレス
↓
離職
↓
人手不足
↓
さらに仕事が増える
↓
さらにストレス
この負のスパイラルです。
つまり、
人手不足は原因ではなく結果でもあるのです。
運賃が上がらないこともストレスを生む
私は以前から書いてきました。
物流会社は
価格転嫁率が全産業最下位です。
運賃が上がらない。
利益が残らない。
利益が残らないから
- 人を増やせない
- 休めない
- 賃金も上げにくい
- 教育もできない
結果として、
現場だけが疲弊していきます。
これは経営者の努力不足ではありません。
物流という商流構造の問題です。
AIだけでは解決しない
最近は
AI
DX
物流ロボット
Agentic ERP
などが注目されています。
もちろん効率化は重要です。
しかし、
AIが代わりに
- 荷待ちをすることはできません。
- 荷役をすることもできません。
- クレーム対応もできません。
- 深夜配送もできません。
AIが減らせるのは
事務ストレスです。
物流現場のストレスは
人間同士の構造改善が必要になります。
フォークリフト競技大会が持つ意味
私は以前、
フォークリフト競技大会の記事でも書きました。
技術を競う大会は
単なるイベントではありません。
技能が評価される。
努力が認められる。
仲間と交流できる。
会社を超えた誇りが生まれる。
こうした場は
実はメンタルヘルスにも大きく貢献しています。
サポート不足が課題なら、
業界全体で横のつながりを増やすことも重要なのです。
個人ができる対策
現場で働く方が今日からできることもあります。
① 一人で抱え込まない
物流は「我慢が美徳」という文化が根強くあります。
しかし、我慢は事故につながります。
体調不良や精神的な負担は、早めに上司や同僚へ相談することが重要です。
② 睡眠を最優先にする
交代勤務や長距離運転では睡眠不足がストレスを増幅させます。
休日の生活リズムも極端に崩さず、睡眠時間を確保することが事故防止にもつながります。
③ 仲間とのコミュニケーションを意識する
短時間でも情報交換や雑談を行うことで、孤立感の軽減やストレス緩和につながります。
企業が取り組むべきこと
企業側には、働く環境そのものを見直す視点が求められます。
- 荷待ち・荷役時間の削減
- AIやDXによる事務負担軽減
- 配車の平準化
- 相談しやすい職場づくり
- 管理職へのメンタルヘルス教育
- 定期的な1on1面談
- 有給休暇を取得しやすい環境整備
- 技能競技会や表彰制度によるモチベーション向上
給与だけでは人は定着しません。
「安心して働ける職場」であることが、これからの採用競争では大きな武器になります。
行政に求めたいこと
物流は社会インフラです。
だからこそ、企業任せでは限界があります。
行政には次のような支援を期待します。
- 標準的運賃のさらなる実効性確保
- 荷待ち・荷役時間削減の監督強化
- 中小物流企業のDX・AI導入支援
- 健康経営・メンタルヘルス対策への補助制度拡充
- 物流人材育成への助成
- 高速道路SA・PAの休憩環境整備
- 女性や高齢者が働きやすい職場づくりへの支援
「物流を守る政策」は、そのまま国民生活を守る政策でもあります。
物流業界は「心の2024年問題」に向き合う時代へ
2024年問題では労働時間が議論されました。
しかし、今回の調査が示したのは、
時間だけではなく、心の問題が深刻化しているという現実です。
物流は、人が支える産業です。
AIが進化しても、ロボットが増えても、最後に荷物を動かすのは人です。
その人が疲れ切ってしまえば、物流は成り立ちません。
働き続けられる業界へ
私は物流ニュースを追い続ける中で、「運べるか」という議論は数多く見てきました。
しかし、これからはもう一つの視点が必要です。
「働き続けられるか」。
ストレスは個人の弱さではありません。
働き方、商流、価格転嫁、人手不足、荷待ち、そして社会の物流に対する価値認識――それらが積み重なって生まれる"構造の問題"です。
物流業界が本当に持続可能な産業になるためには、効率化だけでなく、人が安心して働き続けられる環境づくりが欠かせません。
物流改革の次のテーマは、「輸送力」ではなく「人間力」を守ることではないでしょうか。