物流業界入門

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【通関料金の値上げは、まだ終わらない】――住友倉庫も改定。「価格正常化」は業界全体の新しい標準になり始めた

住友倉庫は、2026年7月1日から通関業務に関する料金を改定しました。

同社は改定理由として、

  • 物流業界全体の人件費上昇
  • 労働力不足
  • EPA(経済連携協定)の拡充
  • 法令対応の高度化・複雑化
  • コンプライアンス強化
  • セキュリティ管理強化
  • システム投資の増加

などにより、現行料金の維持が困難になったと説明しています。

一見すると、一企業による価格改定のニュースです。

しかし私は、このニュースを見て確信しました。

もはや通関料金の値上げは個社の判断ではありません。物流業界全体の「新しい価格基準」が形成され始めています。


三井倉庫に続き、住友倉庫も動いた

先日、私は三井倉庫ホールディングスの通関料金改定について考察しました。

そして今回、住友倉庫も同様の理由で料金改定に踏み切りました。

さらに今年に入って確認されている主な動きは、

  • 日本通運(NXグループ)
  • 上組
  • 丸紅ロジスティクス
  • 三菱倉庫
  • 富士物流
  • 伊勢湾海運
  • 三井倉庫ホールディングス
  • 住友倉庫

と、大手各社が相次いで価格改定を実施しています。

ここまでくれば偶然ではありません。

価格正常化が業界全体へ波及しているのです。


なぜ各社が同じ理由を挙げるのか

各社の発表を見ると、

驚くほど共通しています。

その理由は

  • 人件費
  • 人材不足
  • DX投資
  • システム更新
  • コンプライアンス
  • EPA対応
  • セキュリティ

です。

これは、

どこか一社だけの経営課題ではありません。

通関業界全体が同じ構造問題を抱えていることを意味しています。


通関業務は昔とは別の仕事になった

一般には、

通関は

「税関へ申告書を出す仕事」

というイメージがあります。

しかし現在は全く違います。

通関士は、

  • HSコード分類
  • 原産地規則確認
  • EPA・FTA適用判断
  • 輸出管理令対応
  • 経済安全保障関連法令
  • 動植物検疫
  • 食品衛生法
  • 関税法
  • 外為法
  • AEO制度対応

など、

非常に高度な専門知識を求められます。

さらに近年は、

電子申告システムの高度化、

サイバーセキュリティ対策、

トレーサビリティ確保など、

IT分野の知識まで必要になっています。

つまり、

仕事量だけではなく、仕事そのものの難易度が大きく上がっているのです。


「30年間の据え置き」が限界を迎えた

私が以前の記事でも触れたように、

今回の流れを作ったのはNXグループでした。

日本通運は、

約30年間実質的に維持されてきた料金体系を見直し、

価格改定へ踏み切りました。

2017年の通関業法改正によって料金の上限制は撤廃されましたが、

実際には旧来の料金水準が市場に残り続けました。

つまり今回の値上げは、

「値上げ」

というより、

長年据え置かれてきた価格を現実へ戻す作業

と言った方が正確でしょう。

住友倉庫の改定も、

その流れの延長線上にあります。


本当の値上げ対象は「知識」である

物流では、

運賃ばかりが注目されます。

しかし国際物流では、

貨物を動かす前に、

知識が動いています。

輸入できるのか。

関税はいくらか。

EPAが使えるのか。

必要書類は何か。

税関へどう申告するか。

これらを判断するのは、

通関士です。

つまり今回値上がりしているのは、

紙一枚の申告ではありません。

専門知識そのものなのです。


安い通関は、最終的に荷主も困る

もし料金だけを据え置けば、

何が起きるでしょうか。

  • 通関士が集まらない
  • 若手が育たない
  • DX投資が止まる
  • システム更新が遅れる
  • ミスが増える
  • 貨物が止まる

結果として困るのは、

物流会社だけではありません。

輸出入を行う荷主企業です。

国際物流では、

一件の通関遅延が、

工場停止、

納期遅延、

販売機会損失につながることも珍しくありません。

だからこそ、

適正料金は、

物流会社の利益ではなく、

サプライチェーン全体への保険とも言えます。


次に見直されるのは何か

私は今回の住友倉庫のニュースを見て、

価格正常化はまだ始まったばかりだと感じています。

今後見直しが進む可能性が高いのは、

  • フォワーディング
  • 保税蔵置業務
  • 港湾荷役
  • 倉庫保管
  • 流通加工
  • 配送
  • 国際一貫輸送

などです。

これまで

「サービス」

として無償で提供されてきた付加価値業務にも、

徐々に適正な価格が付く時代になるでしょう。


荷主企業も発想を変える時期に来ている

これまで荷主企業は、

物流コストを「削減対象」として考えることが一般的でした。

しかし、現在の国際物流を支えているのは、

高度な専門知識を持つ人材、

DX、

セキュリティ、

法令対応です。

これらは価格競争だけでは維持できません。

今後荷主企業には、

「一番安い物流会社」

ではなく、

「止めない物流会社」へ適正な対価を支払うという視点が、より重要になるでしょう。


終わりに

住友倉庫の通関料金改定は、一企業の値上げではありません。

NXグループを起点に、三菱倉庫、三井倉庫、上組、そして住友倉庫へと広がる一連の動きは、通関業界全体が「価格競争の時代」から「価値に応じた適正価格の時代」へ移行し始めたことを示しています。

通関業務は、もはや単なる申告手続きではありません。

国際情勢の変化、EPAの拡大、経済安全保障、コンプライアンス、サイバーセキュリティ――。

国境を越える物流の最前線で、高度な専門知識によってサプライチェーンを支える知的インフラです。

だからこそ、その価値に見合った価格へと見直されることは、物流会社のためだけではなく、日本の輸出入を支える基盤を維持するためにも不可欠です。

私は今回の住友倉庫の料金改定を見て、「物流価格の正常化」はすでに点ではなく線となり、やがて物流業界全体の新しい標準になっていくと感じました。

そして、この流れは通関だけでは終わりません。

フォワーディング、港湾荷役、倉庫、配送――これまで企業努力で吸収され続けてきた物流サービス全体の価格体系が見直される時代が、いよいよ本格的に始まろうとしています。