物流業界入門

物流業界の基礎から最新トレンドまで、現場経験を活かしてわかりやすく解説!

【運転手の給料は上がった。それでも人は集まらない】――本当に不足しているのは「賃金」ではなく、「持続可能な労働構造」である

全日本トラック協会は2025年度版「トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」を公表しました。

調査によると、トラック運送事業の男性運転者(けん引・大型・中型・準中型・普通)の1人1カ月平均賃金は37万4900円(前年比4.1%増)、年間賞与を1カ月当たりに換算して加えた月額は42万3300円(同4.8%増)となりました。

また、全職種平均でも月額賃金は35万9800円(同5.3%増)、賞与を含めた月額では41万6400円(同7.1%増)と上昇しています。

一見すると、

「物流2024年問題を受け、待遇改善が進んでいる」

そんなニュースに見えます。

しかし、私はこの数字を見て、

「賃金は改善している。しかし、物流構造の課題はまだ解決していない」

と感じました。


確かに賃金は上がっている

今回の調査では、

男性運転者の平均賃金は前年より約4%増加しました。

これは近年では比較的大きな伸びです。

背景には、

・物流2024年問題

・荷主への価格転嫁

・最低賃金上昇

・人材確保競争

などがあります。

つまり、

運送会社がこれまで吸収してきたコストを、

ようやく運賃へ反映できる環境が少しずつ整い始めています。

これは業界にとって前向きな変化と言えるでしょう。


しかし、「高収入」と言えるのか

ここで重要なのは、

他業種との比較です。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では、全産業・男性労働者の平均的な賃金水準は上昇傾向にあります。

また、国税庁「民間給与実態統計調査」でも、日本の給与所得者全体の平均給与は近年増加しています。

今回の調査では、

男性運転者の賞与込み月額は42万3300円です。

単純な金額だけ見れば、

決して低い水準ではありません。

しかし、

問題は

「その賃金を得るために必要な働き方」

です。


高い給与を支えているのは「変動給」

今回の調査で最も注目すべき数字があります。

大型運転者では、

変動給が賃金全体の46.1%

を占めています。

さらに、

変動給の内訳を見ると、

・時間外手当

・歩合給(運行手当)

が大半を占めています。

つまり、

給与が高い理由は、

基本給が高いからではありません。

長時間労働や走行距離、運行実績によって給与が積み上がる構造

なのです。

ここが、

一般企業との大きな違いです。


他業種は「基本給」が伸びている

製造業

情報通信業

金融業

建設業

これらの業界でも賃上げは続いています。

しかし、

近年の賃上げは

基本給そのものを引き上げる

ベースアップ(ベア)

が中心です。

つまり、

働く時間を増やさなくても

給与が上がる方向へ進んでいます。

一方、

トラック運送業界では、

依然として

時間外手当や歩合給への依存度が高い状況が続いています。

これは、

構造的な違いと言えます。


2024年問題は「時間」を減らした

物流2024年問題では、

時間外労働の上限規制が導入されました。

つまり、

以前のように

長時間働いて

時間外手当で稼ぐことが難しくなっています。

だからこそ、

今後は

基本給をどう引き上げるか

運賃をどう適正化するか

が重要になります。

今回の賃上げは、

その第一歩ではあります。

しかし、

まだ途中段階です。


平均年齢50歳という現実

今回の調査では、

男性運転者の平均年齢は

50.0歳

でした。

前年からさらに上昇しています。

つまり、

業界は依然として

高齢化が進んでいます。

賃金が上がっても、

若い人材が十分流入している状況ではありません。

なぜでしょうか。

私は、

若い世代は

給与だけでは仕事を選ばなくなっているからだと思います。

今は、

・休日

・働き方

・福利厚生

・キャリア形成

・将来性

まで含めて職業を選ぶ時代です。

給与だけでは、

人材確保は難しくなっています。


「運転手不足」ではない

私は以前から、

「運転手不足」

という表現には違和感があります。

不足しているのは、

運転免許ではありません。

不足しているのは、

持続的に働き続けられる労働環境

です。

例えば、

・長距離中心の働き方

・待機時間

・荷待ち

・荷役負担

・休日取得

こうした構造が改善されなければ、

いくら賃金が上がっても、

若い世代は定着しません。


本当の課題は「給与」から「生産性」へ

これから物流企業が考えるべきことは、

給与額だけではありません。

重要なのは、

一人当たりの生産性です。

・配車最適化

・共同配送

・積載率向上

・荷待ち削減

・物流DX

こうした改善によって、

短い労働時間でも

高い付加価値を生み出せる仕組みを作ること。

それが、

今後の物流経営のテーマになります。


考察後記

私は今回の調査を見て、

「物流業界はようやく価格正常化の成果が賃金へ表れ始めた」

と感じました。

これは決して小さな前進ではありません。

運賃の適正化が進み、

その一部が現場へ還元され始めたことは、

業界全体にとって重要な変化です。

しかし一方で、

給与の約半分を変動給が占める職種があること、

平均年齢が50歳に達していること、

若年層の流入が十分ではないことを見ると、

構造改革はまだ道半ばです。

物流業界が本当に目指すべきなのは、

「長く働くほど稼げる仕事」ではありません。

「限られた時間でも、安心して生活できる収入を得られる仕事」

へ転換することです。

賃金は確かに上がりました。

しかし、本当の勝負はここからです。

運賃の正常化を、人材への投資、生産性向上、そして働き方改革へどうつなげるか。

私は今回の調査を、その転換点を示す重要なデータだと受け止めています。