米国の倉庫パフォーマンス管理企業「Easy Metrics」は6月30日、新たな倉庫運営評価指標「Targeted Cost to Serve(TCTS)」の提供開始を発表しました。
TCTSは、従来の「予算と実績を比較する」管理ではなく、
実際に現場で発生した仕事の複雑さを反映した"本来あるべきコスト"を算出し、それを基準として運営効率を評価する仕組みです。
一見すると海外企業の新サービスの話です。
しかし私は、このニュースは単なるシステム紹介ではなく、
物流業界の"管理思想"そのものが変わり始めていることを示す象徴的な出来事だと感じました。
従来の倉庫管理は「予算」が主役だった
多くの物流センターでは、
月初に予算を立て、
- 人件費
- 残業時間
- 作業時間
- 生産性
などを実績と比較します。
しかし現実の物流現場は、
毎日同じ仕事ではありません。
例えば、
ある日は
・ケース単位出荷
翌日は
・バラピッキング中心
さらに
・返品処理 ・ギフト包装 ・検品 ・値札貼付 ・流通加工
まで加われば、
同じ1000件の出荷でも、
現場負荷は全く違います。
それにもかかわらず、
「予算との差」だけで評価すると、
現場は常に不利になります。
TCTSが評価するのは「結果」ではなく「仕事そのもの」
Easy Metricsが発表したTCTSは、
注文内容、SKU構成、工程の複雑さ、顧客要件、作業フローなどを反映し、「その日の業務量なら本来いくらかかるべきだったか」を動的に算出します。
つまり、
評価対象は
コストそのものではなく、コストが発生した理由です。
ここが従来のKPIとの決定的な違いです。
私は賛成。しかし一点だけ危うさも感じる
私はこの考え方には基本的に賛成です。
物流は、
「安くやれ」
だけでは限界を迎えています。
2024年問題以降、
物流企業は
- 人材不足
- 多品種少量化
- EC拡大
- 人件費上昇
という構造変化に直面しています。
だからこそ、
仕事の難易度を無視した評価は、
現場を疲弊させるだけです。
一方で、
注意すべき点もあります。
それは、
数字だけが独り歩きする危険性です。
KPIが増えても、物流は良くならない
物流業界では
新しい指標が登場すると、
すぐに
「この数字を改善しよう」
となります。
しかし、
本来KPIとは
改善のための道具であり、
目的ではありません。
例えば、
TCTSが
「この倉庫は効率が悪い」
と示しても、
原因は
- 荷主要求
- 作業設計
- レイアウト
- システム
- 人員配置
など、
様々です。
数字だけ見て
「現場が悪い」
となれば、
結局、
従来の管理と何も変わりません。
本当の価値は「物流」と「財務」が同じ言葉で話せること
私が最も注目したのは、
Easy Metrics自身が、
TCTSは
物流部門と財務部門が共通の指標で議論できる仕組み
であると説明している点です。
物流現場は
「今日は仕事が難しかった」
と言います。
一方、
財務部門は
「コストが増えた」
と言います。
どちらも正しい。
しかし、
両者は同じものを見ていません。
TCTSは、
そのギャップを埋めようとしています。
これは非常に大きな意味があります。
3PLにとっては「利益の見える化」が始まる
TCTSは、
特に3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)事業者で効果を発揮するとされています。
顧客ごとのサービス内容や作業負荷を反映した採算分析や契約利益率の可視化に活用できるためです。
例えば、
同じ保管契約でも、
ある荷主は
- 多頻度出荷
- バラピック中心
- 急な変更が多い
一方、
別の荷主は
- パレット単位
- 定期出荷
- 作業が安定
売上が同じでも、
利益は全く違います。
これまで
「何となく利益が出ない」
だったものが、
数字で見える時代になります。
日本物流も同じ方向へ進むだろう
日本では、
物流DXという言葉が先行しています。
しかし、
本当に重要なのは
DXではありません。
物流を"測る思想"を変えることです。
AIも、
WMSも、
自動倉庫も、
正しい評価軸がなければ
十分な価値を発揮できません。
これから重要になるのは、
「何件処理したか」
ではなく、
どれだけ複雑な仕事を、どれだけ効率よく処理したか
という視点です。
考察後記
私は今回のニュースを見て、
「物流はコストを削る時代から、コストを正しく理解する時代へ入った」
と感じました。
これまで物流業界は、
予算との差異や生産性といった単純な数字で現場を評価してきました。
しかし現実には、
物流の仕事は日々変化し、
荷主の要求も、
商品構成も、
作業難易度も、
常に変動しています。
その変化を無視して
「予定よりコストが高い」
と評価すること自体が、
現場とのズレを生み出していました。
今回のTCTSは、
そのズレを埋めようとする新しい管理思想です。
もちろん、
どれほど優れた指標でも、
数字だけを追えば現場は疲弊します。
重要なのは、
指標を増やすことではありません。
現場で何が起きているのかを正しく理解し、その実態を経営と共有することです。
私はこれからの物流DXで本当に求められるのは、
AIでも自動化でもなく、
「物流の複雑さを正しく評価できる経営」
なのではないかと考えています。