日本スーパーマーケット協会(JSA)は通常総会にあわせ、「サプライチェーン全体最適による流通生産性改革」をテーマとした記念パネルディスカッションを開催しました。
製造、卸、小売、行政のトップが一堂に会し、
・物流2024年問題 ・人手不足 ・商品マスタ統一 ・物流効率化
について議論しました。
一見すると業界団体の会合ですが、
物流の視点から見ると、
日本のサプライチェーンが今どこまで変わり、何がまだ変わっていないのかを示す象徴的な議論だったと感じます。
本当のテーマは「物流改革」ではない
今回の議論を見ていて感じたのは、
物流改善そのものではありません。
本当のテーマは
サプライチェーン全体の再設計
です。
これまで日本企業は
メーカー
↓
卸
↓
物流会社
↓
小売
という縦割り構造で最適化を進めてきました。
しかし現在は、
ドライバー不足
物流費高騰
店舗人員不足
在庫最適化
これらすべてが同時に起きています。
つまり、
一社だけ努力しても解決できない段階へ入っています。
商品マスタ統一が進まない現実
今回もっとも印象的だったのは、
JSA岩崎会長が
「商品マスタ統一は思うように進んでいない」
と率直に語ったことです。
さらに、
日本アクセスの服部社長は
卸売会社が商品マスタ登録を代行している現状について
「本来、商品の登録はメーカーの責任ではないか」
と問題提起しました。
私はここに、
日本型サプライチェーンの非効率が凝縮されていると思います。
データが統一されない限りAIは機能しない
Mizkan の吉永智征副会長は
アメリカでは商品コードが統一され、
POSから生産計画まで一気通貫でつながっていると説明しました。
これは極めて重要です。
AIが得意なのは
大量の統一データを分析することです。
しかし、
企業ごとに
商品コード
マスタ
データ形式
入力ルール
これらが違えば、
AIは十分な力を発揮できません。
つまり、
DX以前に
データ標準化
という土台が整っていないのです。
「物流2024年問題」はきっかけに過ぎない
物流2024年問題によって
トラック不足が注目されました。
しかし、
今回各社の発言を見ると
本質は違います。
・発注時間
・特売情報
・商品登録
・リードタイム
・在庫情報
これらが企業ごとにバラバラだから、
物流だけに負荷が集中していたのです。
つまり、
2024年問題は
物流会社の問題ではなく
サプライチェーン全体の設計問題だったことが明確になってきました。
評価すべきは「協調領域」が広がり始めたこと
今回評価できる点もあります。
国分グループが紹介した
FSP(フードサプライチェーン・サステナビリティ・プロジェクト)
では
・定番商品の発注時間前倒し
・特売商品のリードタイム確保
などを共同で改善しました。
また、
SM物流研究会では
リードタイム改善によって
トラック台数削減
コスト削減
につながったと報告されています。
これは、
競争する部分と、
協力する部分を切り分け始めた
という意味で非常に大きな前進です。
物流は競争ではなく、
共創するインフラへ変わり始めています。
一方で、動き出すのが遅すぎたという現実もある
しかし、
厳しい見方をすれば、
この議論は
本来10年以上前に終わっているべき議論でもあります。
キユーピー髙宮社長も
メーカー側は10年以上前から物流課題を認識していた
と語っています。
それにもかかわらず、
2026年になっても
商品マスタ統一すら実現できていない。
これは、
日本企業が
企業最適
系列
慣習
既得権
を優先してきた結果とも言えます。
危機が現実になって初めて動き始めた。
これが日本物流の弱さでもあります。
行政も「標準化」を後押しし始めた
経済産業省は
①協調領域の明確化
②効果とコストの見える化
③現場実装
の3点が必要と説明しました。
これは非常に重要です。
個社努力だけでは
標準化は進みません。
共通ルール
共通コード
共通データ
これらは行政も含めて整備していく必要があります。
物流DXとは、
システム導入ではなく、
標準化を進めることなのです。
物流会社の役割も変わる
これまで物流会社は
「運ぶ会社」
でした。
しかし今後は違います。
物流会社は
情報をつなぐ会社
になります。
配送情報
在庫情報
需要予測
発注情報
これらを結び、
サプライチェーン全体を最適化する役割へ変わっていきます。
つまり、
物流企業は
運送業から
情報インフラ企業へ進化していくのです。
考察後記
私は今回のパネルディスカッションを見て、
物流改革の本当の対象はトラックではないと改めて感じました。
改革すべきなのは、メーカー、卸、小売、物流、行政がそれぞれ個別に最適化を追求してきたサプライチェーン全体の構造です。
商品マスタの統一が象徴するように、日本では企業ごとに異なる仕組みが積み重なり、それが物流現場へ過度な負担を押し付けてきました。2024年問題は、その矛盾を顕在化させたに過ぎません。
一方で、FSPやSM物流研究会のように、企業の垣根を越えて「協調領域」を広げる取り組みが成果を上げ始めていることは高く評価できます。競争すべき領域と、共同で標準化すべき領域を切り分ける考え方は、今後の物流改革の重要な方向性となるでしょう。
これからAIやDXが本格化する時代において、最も価値を持つのは高性能なシステムではありません。
誰もが同じルールで情報を共有できる「標準化されたデータ基盤」です。
物流はモノを運ぶ産業から、情報をつなぎ、サプライチェーン全体を最適化する社会インフラへと進化しています。
今回の議論は、その転換点を示す象徴的な出来事だったのではないでしょうか。