物流業界入門

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【組織構造考察】「公開ダメ出し」は教育ではない――改善されるべきなのは若手社員ではなく、「学習できない組織構造」である

ある物流現場で行われた約10人規模の社内ミーティング。

議題は、入社3年目の若手社員一人の改善点について。

本人が出席する中で、

・業務上の課題 ・改善点 ・上長との習熟度チェック表

まで全員に公開され、参加者全員で確認・指摘が行われたそうです。

一見すると、

「若手育成」

「教育」

「成長支援」

のようにも見えます。

しかし私は、このやり方を教育とは考えません。

本当に問われるべきなのは、その若手社員ではなく、このような場を教育だと考えてしまう組織の構造そのものです。


教育とは「評価」ではなく「成長支援」である

企業には人材を育成する責任があります。

当然、

改善点を伝えることも必要です。

厳しいフィードバック自体が悪いわけではありません。

問題なのは、

「誰の前で」「どのような目的で」伝えるかです。

本人一人に対する改善指導を、

約10人の前で行う。

しかも、

個人の習熟度チェック表まで共有する。

この場は、

教育というより

公開評価

になっています。


本人以外は何を学ぶのか

教育には、

必ず学習対象があります。

例えば、

安全会議なら、

全員が事故原因を学びます。

品質会議なら、

全員が品質改善を学びます。

しかし今回、

議題は

一人の社員の改善点です。

では、

残り9人は何を学ぶのでしょうか。

多くの場合、

学ぶのは

「失敗すると自分もああなる」

という恐怖です。

これは教育ではなく、

萎縮です。


心理的安全性は失われる

近年、多くの企業で重視されているのが

心理的安全性です。

心理的安全性とは、

失敗や疑問を安心して話せる環境のことです。

心理的安全性が高いチームほど、

情報共有や改善提案が活発になり、組織学習や成果にも良い影響を与えることが、多くの研究で示されています。

逆に、

人前で否定されたり、

「公開で悪い評価を受ける」

という経験は、

発言や挑戦を控える行動につながります。

つまり、

組織全体が

「失敗を隠す文化」

になっていきます。


公開フィードバックは短期的効果と長期的リスクがある

もちろん、

公開の場で改善を促した結果、

本人が一時的に努力するケースはあります。

実際、

ネガティブフィードバックは羞恥心を通じて短期的に努力や業績を高める可能性がある一方で、精神的負担や疲弊を招くリスクも報告されています。

つまり、

短期的には改善して見えても、

長期的には

・挑戦しなくなる

・質問しなくなる

・失敗を隠す

・離職につながる

という副作用を生みやすくなります。


チェック表を公開する意味はあるのか

業務習熟度チェック表は、

本来、

本人と上司が

現状を共有し、

育成計画を立てるためのものです。

これを全員へ公開した場合、

本人は

「育成資料」

ではなく、

「評価資料」

として受け止める可能性があります。

また、

周囲も

「次は自分かもしれない」

という意識を持つでしょう。

その瞬間、

チェック表は

育成ツールではなく、

管理ツールへ変わってしまいます。


本当の問題は「個人」ではなく「仕組み」にある

入社3年目で課題がある。

それ自体は珍しいことではありません。

本来問うべきなのは、

「なぜその課題が残ったのか」です。

例えば、

・教育計画は適切だったのか

・OJTは機能していたのか

・上司は十分な1on1を行っていたのか

・業務量は適正だったのか

・評価基準は明確だったのか

これらを検証せず、

本人だけを改善対象にしてしまうと、

組織は何も学びません。

個人を責めても、

仕組みは改善されないからです。


本当に教育したいなら「公開」するものが違う

もし10人集めるのであれば、

公開すべきなのは、

個人の課題ではありません。

公開すべきなのは、

組織の課題です。

例えば、

・教育プロセス

・業務フロー

・情報共有方法

・ミスが起きた背景

・再発防止策

これなら、

全員が学べます。

個人ではなく、

仕組みを改善する。

これこそ組織学習です。


上司が評価者だけになってはいけない

部下育成において、

上司には

二つの役割があります。

一つは

評価者。

もう一つは

コーチです。

しかし、

公開ダメ出し中心になると、

部下から見た上司は

評価者だけになります。

そうなると、

部下は

相談ではなく、

防御を始めます。

育成よりも、

評価を避ける行動が増えてしまいます。


良い組織は「人」を責めず、「仕組み」を見直す

優れた組織では、

ミスが起きた時、

最初の問いは

「誰が悪いか」

ではありません。

「なぜこの仕組みで、そのミスを防げなかったのか」

です。

もちろん、

本人への指導は必要です。

しかし、

それは1on1や面談など、

本人が安心して対話できる場で行うべきです。

チーム全体の会議では、

個人ではなく、

組織全体が学べるテーマを扱う。

その方が、

結果として組織全体の成長につながります。


考察後記

私は、このような公開ミーティングを見聞きするたびに、「教育」と「管理」が混同されているのではないかと感じます。

教育とは、人を変えることではありません。

人が成長できる環境をつくることです。

公開の場で個人の改善点を指摘すれば、一時的に行動が変わることはあるかもしれません。しかし、その代償として失われる心理的安全性や挑戦する文化は、組織にとって非常に大きな損失です。

本当に改善すべきなのは、若手社員一人ではありません。

その社員が十分に成長できなかった背景にある教育体制、コミュニケーション、評価の仕組みです。

人を責める組織は、同じ問題を繰り返します。

仕組みを改善する組織だけが、継続的に成長できます。

教育とは、「失敗した人をみんなで見ること」ではありません。

失敗から、みんなで学べる組織をつくることです。