公正取引委員会は7月8日、住宅設備機器メーカーのノーリツに対し、下請法違反で勧告を行いました。
対象となったのは、給湯器などの部品製造に使用する金型です。
ノーリツは、発注のない金型5,242個を41社の下請事業者に無償で保管させていました。
最も長いものでは約20年間保管され、一部の下請事業者が保管料の支払いを求めても応じられず、廃棄の申し出も認められなかったケースがあったとされています。
また、ノーリツは「発注のない金型を現場レベルで特定できず、どの金型が未発注なのか紐づけできない管理体制だった」と説明しています。
しかし、この問題を「金型を無償保管させた下請法違反」とだけ捉えると、本質を見誤ります。
物流の視点から見れば、今回露呈したのはサプライチェーン全体の情報管理の課題です。
金型は「工具」ではない
製造業において金型は単なる設備ではありません。
一つひとつが、
- どの部品を製造するのか
- どの取引先が保有しているのか
- 今後も生産する予定があるのか
という情報と結び付いた、生産インフラそのものです。
だからこそ、
「今後使う予定がある」
「もう使わない」
この判断ができなければ、
現場では廃棄も保管料請求も進みません。
今回問題になったのは、
金型が存在していたことではなく、その状態を管理できていなかったことでした。
問題は現場ではなく「情報」が止まっていたこと
ノーリツは、公正取引委員会に対し、
「発注のない金型を特定できない管理体制だった」
と説明しています。
これは言い換えれば、
現場の保管場所は分かっていても、
経営側が
- 発注履歴
- 生産計画
- 金型管理
を一体で把握できていなかったということです。
物流では、
モノの流れより、情報の流れが止まる方が深刻です。
情報が止まれば、
在庫も止まる。
設備も止まる。
判断も止まる。
今回の問題は、その典型例と言えるでしょう。
金型管理は物流管理でもある
物流というと、
トラックや倉庫を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、物流の対象は完成品だけではありません。
部品。
治具。
金型。
包装資材。
こうした生産を支える資産も、サプライチェーンの一部です。
だから金型管理も、
物流管理の延長線上にあります。
「どこにあるのか」
だけでは足りません。
「今後使うのか」
「維持する価値があるのか」
まで管理して初めて、物流管理と言えます。
DXとはシステム導入ではない
最近はDXという言葉が広く使われています。
しかし、本質はシステムを導入することではありません。
経営情報と現場情報を結び付け、
誰でも同じ判断ができる状態をつくることです。
今回のケースでは、
金型そのものは存在していました。
問題だったのは、
その金型が
「いつ使われたのか」
「今後使われる予定があるのか」
という情報が、経営判断につながっていなかったことです。
これは製造業だけの問題ではありません。
物流センターでも、
長期滞留在庫。
遊休設備。
使われないパレット。
こうしたものは、情報管理が機能しなくなることで発生します。
下請法違反はコンプライアンスだけの問題ではない
今回、公正取引委員会は保管料の支払いと再発防止策を求めました。
ノーリツも支払い手続きを進めるとともに、再発防止と信頼回復に努めるとしています。
もちろん、法令遵守は欠かせません。
しかし、本当に見直すべきなのは、
「なぜ20年間も不要な金型が管理され続けたのか」
という構造です。
この構造が変わらなければ、
対象が金型から在庫や設備へ変わるだけで、
同じ問題は繰り返されます。
おわりに
今回の勧告は、金型保管の問題として報じられました。
しかし、その背景には、
情報と現場が分断されたサプライチェーンの課題があります。
物流とは、モノを運ぶ仕組みではありません。
物流とは、「モノ・情報・経営判断」を同期させ、サプライチェーン全体の意思決定を支える産業なのである。