国土交通省は7月14日、「物流政策推進関係者会議」の初会合を開催しました。
一見すると、新たな会議体が立ち上がっただけのニュースに見えるかもしれません。
しかし物流の構造を見る立場から言えば、本当に注目すべきなのは会議そのものではありません。
物流政策を決める仕組みそのものが変わり始めたことです。
今回の会議は、2025年6月に成立した「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」に基づき設置された「物流政策推進会議」の下部組織として設けられました。議題には、
- トラック適正化二法・改正物流法の施行状況
- 適正原価制度の施行に向けた対応
- 総合物流施策大綱を踏まえた施策
など、今後の物流政策の中核となるテーマが並んでいます。
つまりこれは、
「物流改革をどう実行していくか」を議論する実務レベルの司令塔が動き始めたということです。
私が今回、最も重視した3つのポイント
今回の会議で、私が特に重要だと考えた点は次の3つです。
① 「法律を作る」から「運用する」段階へ移った
これまで物流政策は、
- 物流2024年問題
- 改正物流効率化法
- トラック適正化二法
など、新しい制度づくりが中心でした。
しかし制度は、成立しただけでは現場は変わりません。
荷主はどう動くのか。
物流会社は何を準備するのか。
行政はどう支援するのか。
今回の会議は、こうした「制度を現場で機能させる」ことを目的とした実務会議です。
物流改革は、ようやくスタートラインに立ったと言えるでしょう。
② 適正原価制度が本格的に動き始めた
議題に「適正原価制度の施行に向けた今後の対応」が盛り込まれたことも見逃せません。
私はこれまで何度も書いてきました。
物流危機の本質は、
「荷物が多いこと」
ではありません。
利益が生まれないことです。
燃料価格。
人件費。
車両価格。
保険料。
整備費。
あらゆるコストが上昇しているにもかかわらず、適正な価格で運賃が形成されない。
その構造を変えるための柱の一つが適正原価制度です。
今回、正式な議題として扱われたことは、
政府が価格形成のあり方まで踏み込もうとしている姿勢の表れと考えられます。
③ 「総合物流施策大綱」を実行する組織になった
2026年度から2030年度までの総合物流施策大綱では、
- 徹底した物流効率化
- 商慣行改革
- 人材確保
- DX・GX
- サプライチェーン強靱化
という5本柱が掲げられています。
今回の関係者会議は、
これらを「実際にどう進めるか」を各省庁と現場が共有する場です。
つまり、
物流DXだけ。
人材不足だけ。
共同配送だけ。
という個別最適ではなく、
物流全体を一つの社会インフラとして設計し直すための実行組織だと言えます。
評価できる点
私は今回の動きを高く評価しています。
理由は、
物流政策が「国土交通省だけの仕事」ではなくなったことです。
物流は、
- 経済産業省
- 農林水産省
- 厚生労働省
- 公正取引委員会
など、多くの省庁が関わる分野です。
これまで縦割り行政が課題とされてきましたが、今回の枠組みでは政府横断で物流政策を推進する体制が整えられています。
物流は「運送業界」の問題ではなく、日本経済全体の課題であるという認識が制度にも表れ始めた点は評価できます。
一方で、課題も残る
ただし、期待だけではありません。
私が懸念するのは、
会議が増えること自体が目的化しないかという点です。
物流業界では、
これまでも数多くの検討会や有識者会議が開催されてきました。
しかし、
現場では依然として、
- ドライバー不足
- 運賃交渉の難しさ
- 荷待ち・荷役時間
- 中小事業者の収益悪化
といった課題が続いています。
重要なのは、
「何を議論したか」
ではなく、
現場が何を実感できるかです。
制度ができても、
運賃が適正化されない。
荷待ちが減らない。
人材が集まらない。
これでは物流改革は成功したとは言えません。
考察後記
私は今回の会議を、
「新しい会議が始まった」
というニュースではなく、
物流政策が実行段階へ移行した象徴だと受け止めました。
物流2024年問題は、
制度を作れば終わる問題ではありません。
現場で運用され、
利益が生まれ、
人材が育ち、
荷主との関係が変わって初めて改革と言えます。
今回設置された物流政策推進関係者会議が、本当に評価されるかどうか。
その答えは議事録ではなく、
数年後に物流現場がどう変わっているかで決まります。
私は今後も、この会議が「議論する場」で終わるのか、それとも「物流を変える場」になるのかを注視していきたいと思います。