物流業界入門

物流業界の基礎から最新トレンドまで、現場経験を活かしてわかりやすく解説!

【物流構造考察・後編】 「2024年問題」は本当に人を辞めさせたのか

――不足しているのはドライバーではない。「利益を生み出せる企業」である

前編では、

86%の物流事業者が燃料費高騰を実感している一方で、その本質は原油価格ではなく、「利益を生み出せない物流構造」にあることを考察しました。

【物流構造考察・前編】 86%が燃料高騰を実感。それでも運賃を上げられない物流業界の構造 - 物流業界入門

価格転嫁が進まない。

利益が残らない。

だから賃上げも設備投資も十分に行えない。

ここまでが前編で見えてきた構図です。

では、その構造は実際に現場の人材へどのような影響を与えているのでしょうか。

今回、X Mile株式会社から提供いただいた調査データを見ると、「2024年問題」と「ドライバー不足」に対する世間のイメージとは異なる姿が浮かび上がってきました。

私はこの2つのグラフを見て、改めて感じました。

物流業界はいま「人が足りない時代」から、「人材が企業を選ぶ時代」へ移行し始めている。


※本記事では、X Mile株式会社が実施した「モビリティ業界294名アンケート(2026年4~5月調査)」および追加提供いただいた調査データを引用・分析しています。調査概要・原文は「クロスワークしごと白書」をご参照ください。 出典:https://x-work.jp/journal/iran-logistics


グラフ「2024年問題による離職」が示した本当の意味

離職の原因は2024年問題ではない

2024年問題が本格化する以前、多くの報道では、

「労働時間規制でドライバーが辞める」

「物流危機が深刻化する」

という論調が目立ちました。

しかし今回の調査結果は、そのイメージとはやや異なる実態を示しています。

調査では、

  • 該当しない(規制対象外)……37.8%
  • 数名いる……28.6%
  • 多数いる……9.5%
  • わからない……24.1%

という結果でした。

確かに離職は発生しています。

しかし、

「多数離職した」と回答した企業は1割に満たないという点は注目すべきでしょう。

もちろん、この結果だけで「2024年問題の影響は小さい」と結論づけることはできません。

一方で、

「2024年問題=大量離職」

という単純な図式でもないことが読み取れます。


ドライバーは「2024年問題」で辞めたのではない

私はこれまで物流業界を取材する中で、多くの現場から共通した声を聞いてきました。

それは、

「2024年問題だから辞める」のではなく、

以前から積み重なっていた不満が限界を迎えた

ということです。

例えば、

  • 長時間労働
  • 慢性的な人手不足
  • 荷待ち・荷役時間の長さ
  • 賃金が上がらない構造
  • 将来への不安

こうした課題は、2024年以前から存在していました。

時間外労働の上限規制は、それらの課題を新たに生み出したわけではありません。

むしろ、

これまで見過ごされてきた構造的な問題を可視化した制度だったと言えるでしょう。

つまり、

2024年問題は「原因」ではなく、

物流業界が抱えていた課題を表面化させた"試金石"だったのです。


「わからない」が24.1%ある意味

私がもう一つ注目したのは、

「わからない」が24.1%という回答です。

これは決して軽視できる数字ではありません。

離職理由を十分に把握できていない企業。

現場の変化を分析できていない企業。

あるいは、離職そのものが発生していない企業。

さまざまな背景が考えられます。

しかし少なくとも、

人材データを経営情報として活用できていない企業が一定数存在する可能性も示唆しています。

これからの物流経営では、

車両管理だけでなく、

人材の定着率や採用率、離職理由まで含めて経営指標として分析することが求められます。


グラフ「ドライバー人員需要」が示した本当の意味

「不足」が業界標準になりつつある

続いて、

ドライバー人員需要の変化を見てみます。

今回の結果で最も多かった回答は、

「中東情勢とは別に、構造的な人員不足が深刻化している」32.0%でした。

次いで、

  • 影響は出ているが現時点では人員需要に変化はない……29.9%
  • 現状維持……22.4%

となっています。

一方で、

人員余剰が発生していると回答した企業は、

わずか3.1%でした。

この数字は非常に象徴的です。

物流業界では景気変動によって荷物量が増減することはあります。

しかし、

人材については、

荷物が多少減ったとしても余る状況にはなっていないのです。

つまり、

人手不足が一時的な現象ではなく、業界の常態になりつつあることを示しています。


「ドライバー不足」という言葉では説明できない

ここで私は、

あえて「ドライバー不足」という表現を使いません。

なぜなら、

本当に不足しているのは、

ドライバーそのものではないからです。

実際には、

待遇が改善され、

働きやすい企業には人が集まる一方で、

利益が確保できず待遇改善が進まない企業では採用が難しくなる傾向が強まっています。

つまり、

業界全体で人が消えたのではなく、

人材が集まる企業と、集まらない企業の差が拡大しているのです。

この構図は、

今後さらに鮮明になるでしょう。


「人材獲得競争」の時代が始まった

前編では、

利益がなければ賃上げを続けられないことを考察しました。

後編の調査データは、

その先にある現実を示しています。

利益を確保できる企業は、

賃上げができる。

教育投資もできる。

DXにも投資できる。

結果として、

人材が集まり、

さらに利益が生まれる。

一方、

利益が残らない企業は、

待遇改善が難しい。

採用も進まない。

人材不足が深刻化する。

その結果、

さらに利益を失う。

こうして、

物流業界では今、

「利益格差」が「人材格差」を生み出す新たな段階へ入り始めています。

これは単なる採用競争ではありません。

企業の収益構造そのものが、人材確保を左右する時代が到来しているのです。

だから私は、

今回の調査結果から見えてきた本当の課題は、

「ドライバー不足」ではなく、

利益を生み出し、人へ再投資できる企業だけが選ばれる時代への転換だと考えています。

この変化を正しく理解できるかどうかが、今後の物流企業の競争力を大きく左右することになるでしょう。


「利益格差」が「人材格差」を生む時代へ

物流会社が競うのは「荷物」ではない。「持続可能性」である

ここまで見てきた調査結果を整理すると、

燃料高騰、

2024年問題、

人手不足、

離職。

一見すると、それぞれ別々の問題のように見えます。

しかし、私はそうは考えていません。

これらはすべて、

「利益を生み出しにくい物流構造」から派生している現象です。

利益が確保できる企業は、

運賃を適正に確保できる。

その利益を賃上げへ回せる。

教育にも投資できる。

DXも進められる。

結果として、

人が集まり、

定着率も高まります。

一方、

利益を十分に確保できない企業では、

待遇改善は難しい。

採用も進まない。

設備投資も遅れる。

その結果、

現場の負担はさらに増え、

離職が起こりやすくなる。

つまり、

物流業界で今起きているのは、

単なる人手不足ではありません。

利益格差が、そのまま人材格差へ転換される時代が始まっているのです。

これは、

今後の物流業界を考える上で最も重要な構造変化と言えるでしょう。


荷主に求められる役割

「物流コスト」ではなく「物流価値」をどう考えるか

この構造を変えるためには、

物流会社だけの努力では限界があります。

物流は、

荷主、

物流会社、

そして消費者まで含めたサプライチェーン全体で成り立っています。

その中で最も重要になるのが、

適正な価格形成です。

これまで日本では、

物流は「できるだけ安く利用するもの」という考え方が長く続いてきました。

もちろん、

荷主企業にも厳しい競争環境があります。

コスト削減が求められる中で、

物流費だけを簡単に引き上げられない事情も理解できます。

しかし、

物流会社が利益を確保できなければ、

人材へ投資できない。

車両も更新できない。

結果として、

物流品質そのものが維持できなくなります。

つまり、

物流費を抑えることが、

将来的にはサプライチェーン全体のリスクへとつながる可能性があるのです。

これからは、

「物流はいくら安くできるか」ではなく、

「物流をどう維持するか」

という視点が求められる時代になっていくでしょう。


物流会社に求められる役割

「運ぶ会社」から「価値を提供する会社」へ

一方で、

物流会社自身にも変化が求められます。

これまでの物流業界は、

荷物を断らない。

価格競争に応じる。

利益より売上を優先する。

そうした経営判断が少なくありませんでした。

しかし、

これからは違います。

利益が残らなければ、

人材へ投資できません。

DXも進みません。

新しいサービスも生まれません。

つまり、

会社そのものが持続できなくなります。

だからこそ、

これからの物流会社は、

荷物を運ぶだけではなく、

在庫管理、

流通加工、

共同配送、

物流DX、

CO₂排出量の可視化、

サプライチェーン最適化など、

物流そのものの価値を高める経営が求められます。

「何件運んだか」ではなく、

「どれだけ付加価値を提供できたか」。

競争軸は、

確実に変わり始めています。


行政に求められる役割

制度改革の次に必要なのは「実効性」である

行政も、

ここ数年で大きく動き始めました。

改正物流効率化法。

改正貨物自動車運送事業法。

物流革新緊急パッケージ。

標準的運賃制度。

物流政策推進関係者会議。

これらは、

物流の構造改革を進めるうえで重要な取り組みです。

一方で、

制度を整備するだけでは、

現場は変わりません。

荷待ち時間は減ったのか。

価格転嫁は進んだのか。

適正運賃は定着したのか。

これから行政に求められるのは、

制度を作ること以上に、

制度が現場で機能しているかを検証し続けることです。

物流改革は、

法律を作って終わるものではありません。

現場へ浸透して初めて、

改革と言えるのです。


今後5年間で物流業界はどう変わるのか

私は今後5年間で、

物流業界は大きく三つの方向へ進むと考えています。

一つ目は、

利益を確保できる企業への人材集中です。

待遇改善を続けられる企業へ、

人材はますます集まるでしょう。

二つ目は、

物流DXと付加価値競争の加速です。

AI、

自動化、

共同配送、

環境対応、

データ活用。

物流会社は、

単に「運ぶ会社」から、

物流全体を設計する企業へ変わっていきます。

そして三つ目は、

企業間格差の拡大です。

利益を確保できる企業は、

さらに投資を進めます。

一方で、

利益を確保できない企業は、

採用も設備投資も難しくなります。

その結果、

業界再編や企業間連携は、

これまで以上に加速していくでしょう。

つまり、

これから物流会社が競うのは、

運送能力だけではありません。

持続可能な経営そのものが競争力になっていくのです。


考察後記

問われているのは「燃料価格」ではない

日本の物流は「利益を生み出せる構造」を築けるのか

今回の調査では、

86%が燃料費高騰を実感していました。

しかし、

前後編を通じて見えてきたのは、

燃料価格そのものではありません。

利益を十分に確保できない物流会社。

人材へ投資できない経営。

価格転嫁が進まない商慣行。

そして、

企業間で広がる人材格差。

これらは、

すべて一つの構造でつながっています。

だから私は、

今回の調査を、

単なる「燃料高騰アンケート」とは捉えていません。

これは、

日本の物流が持続可能な産業へ転換できるかを問う調査だったと考えています。

物流は社会インフラです。

社会インフラである以上、

止めないことは当然重要です。

しかし、

それ以上に重要なのは、

未来に向けて持続できることです。

燃料価格は今後も変動します。

最低賃金も上がるでしょう。

人口減少も避けられません。

だからこそ、

そのたびに危機を繰り返す物流ではなく、

変化を吸収し、

利益を生み出し、

人へ投資できる物流へ変わらなければなりません。

物流ニュースは毎日のように流れていきます。

しかし、

ニュースの裏側にある「構造」は、一朝一夕では変わりません。

私は物流ライターとして13年間現場を経験し、1,000本を超える記事を書いてきました。

だからこそ、

これからも目の前のニュースだけではなく、

制度、

経済、

サプライチェーン、

そして物流現場をつなぐ視点から、

物流業界の本質を読み解き続けたいと思います。

【物流構造考察・前編】 86%が燃料高騰を実感。それでも運賃を上げられない物流業界の構造 - 物流業界入門