🚢 東京港CONPAS常時運用拡大
――「並ばない港」は、本当に現場を救っているのでしょうか
はじめに|港の風景は変わりました。しかし、負担は消えたのでしょうか
2026年1月15日。
東京港・大井3・4号ターミナルにおいて、コンテナ搬出入予約制「CONPAS(コンパス)」の本格運用が始まります。
東京都港湾局、東京港埠頭、関東地方整備局が連携して進めてきたこの仕組みは、
ゲート前混雑の解消、トレーラー滞在時間の短縮を目的とした港湾DXの象徴とも言えます。
横浜港では2021年から常時運用が始まり、
東京港でも2022年度以降、試験運用を重ねてきました。
2025年8月には大井1・2号ターミナルで常時運用に移行し、今回いよいよ3・4号ターミナルにも拡大されます。
数字上の成果は明確です。
- 搬出時のゲート処理時間:約2割削減
- 搬入時の処理時間:推計で約6割削減
では、ここで一つ問いを立ててみたいと思います。
港は確かに整いました。
しかし、現場は本当に楽になったのでしょうか。
CONPASとは何か|「並ばない港」を実現した予約制の正体
CONPASは、コンテナターミナルのゲート通過を事前予約制で管理するシステムです。
トレーラーは、
- あらかじめ時間枠(スロット)を予約し
- 指定された時間帯に到着
- 受付・ゲート通過・荷役を行う
という流れで運用されます。
今回対象となる大井3・4号ターミナルでは、
- 実入り・空コンテナともに完全予約制
- 1日あたり6〜8枠
- 1枠あたり10台
- 火・水曜日の昼オープン日は追加枠を設定
という、かなり細かい時間管理が行われます。
また、関東各県のトラック協会への加盟有無を問わず参加できる点は、
一見すると「開かれた制度」に見えます。
しかし実務の現場では、
制度上の公平性と、運用上の現実にはズレが生じているのも事実です。
数字が示す成果|CONPASは「港の処理能力」を確実に高めました
まずは、制度の成果を冷静に評価する必要があります。
■ ゲート前待機の解消
かつての東京港では、
- 朝早くからゲート前にトレーラーが並び
- 数時間単位の待機が常態化し
- ドライバーの拘束時間が膨らむ
という光景が当たり前でした。
CONPASの導入により到着時間が平準化され、
「並ぶことを前提とした港」から「時間で動く港」へと確実に変化しました。
■ ヤード内オペレーションの前倒し
予約情報をもとに、
- コンテナ位置の事前整理
- 荷役機器や作業員の計画配置
が可能になり、
トレーラー到着後の「探す」「待つ」といった無駄が減少しました。
港湾事業者側にとっては、
オペレーションの安定化という大きなメリットがあります。
しかし現場では|「渋滞は消えた」のではなく「移動した」だけではないでしょうか
ここからは、現場視点で見えてくる違和感です。
■ シャーシ不足と「港の外で起きる渋滞」
CONPASによって、ゲート前の渋滞は確かに減りました。
しかしその一方で、
- バンプール
- 周辺待機場
- 港外ヤード
といった港の外側での待機や調整が増えているという声も聞かれます。
特に深刻なのが、シャーシ(台車)不足との組み合わせです。
予約時間に間に合わせるため、
- シャーシを確保するまで港外で待機
- 付け替えの順番待ち
- 時間調整のための“滞留”
が発生しており、
「場所が変わっただけの渋滞ではないか」という懸念もあります。
見た目上、港はスムーズになりました。
しかし、負担そのものが消えたわけではありません。
予約制の裏側|「取れなければ仕事ができない」という現実
CONPASは、裏を返せばこういう制度です。
予約が取れなければ、港に入れません。
- 急なオーダー
- 荷主都合による前倒し
- 本船遅延によるスケジュール変更
こうした物流現場の日常と、
厳格な予約制は決して相性が良いとは言えません。
結果として、
- 配車担当の調整負荷が増大
- 小規模事業者ほど対応が難しい
- 柔軟性は現場で吸収する構造
が生まれています。
もう一つの不安|キャンセル料・ペナルティは誰を追い詰めるのか
今後、CONPASの常時運用が拡大する中で、
避けて通れないのがキャンセルや予約未達に対するペナルティの問題です。
もし、
- 予約時間に間に合わなかった
- 予約を飛ばしてしまった
といった場合に、
キャンセル料や利用制限といったペナルティが厳格化されればどうなるでしょうか。
これは単なる運用ルールの話ではありません。
運送会社の経営リスクに直結する問題です。
- 交通事情
- 荷主都合
- シャーシ不足
こうした自社でコントロールできない要因によって、
ペナルティを受ける構造が固定化されれば、
現場には常にプレッシャーがのしかかります。
「並ばなくなった代わりに、失敗が許されなくなった」
そんな空気が生まれつつあることも、無視できません。
CONPASの本質|これはDXというより「管理の高度化」です
CONPASは、効率化やDXという言葉で語られがちですが、
本質は管理の高度化だと考えます。
- 時間
- 台数
- 動線
これらをシステムで制御することで、
港全体の秩序は確かに向上しました。
しかし同時に、
自由度と引き換えに、現場の調整力に依存する構造
も強まっています。
その負担が、
運送会社やドライバー側に偏っていないか。
ここを直視しなければなりません。
今後に向けて|CONPASは「完成形」ではありません
CONPASはゴールではなく、あくまで通過点です。
■ 柔軟枠・緊急対応枠の制度化
すべてを予約で縛るのではなく、
- 当日調整枠
- トラブル対応枠
といった「逃げ道」を制度として組み込む必要があります。
■ 荷主を含めた時間価値の共有
最大の課題は、ここです。
「予約制だから何とかなる」
「時間指定したのだから守ってほしい」
この意識のままでは、
負担は運送現場に集まり続けます。
荷主・港湾・運送が同じ時間軸で責任を分かち合うことが不可欠です。
おわりに|「並ばない港」の次に問われるもの
CONPASによって、
東京港は確実に一歩前に進みました。
しかしその裏側で、
- シャーシ不足
- 港外での待機
- 厳格化される運用ルール
といった新たな歪みも生まれています。
DXとは、
システムを導入することではありません。
負担の所在を可視化し、再配分することです。
東京港のCONPASは、
私たちに次の問いを突きつけています。
この効率化の果実を、
本当に現場は受け取れているのでしょうか。
この問いに向き合わない限り、
港が静かに回っていても、
物流が楽になる日は来ないのかもしれません。