――ユニバーサルサービスは守れるのか、それとも“物流会社”へ転生するのか
日本郵便が都内で記者懇談会を開き、郵便事業の将来について率直な危機感を示しました。
コロナ禍以降中止されていた懇談会の再開という節目でもありますが、今回の発言から見えるのは単なる業務課題ではありません。
それは、日本郵便という企業が「郵便会社」であり続けるのか、それとも「物流会社」へ変わるのかという構造問題です。
私は以前の記事でも触れましたが、日本郵便が直面しているのは単なる業績問題ではなく、制度と物流構造の衝突です。
そして今回の発言は、その矛盾がいよいよ表面化してきたことを示しています。
郵便は「制度」、物流は「ビジネス」
今回の懇談会で最も象徴的だった発言は次の部分です。
「世界でもトップクラスの日本の郵便制度を、このまま維持していくのは難しい」
これは極めて重要な発言です。
郵便は本来、ビジネスではなく制度です。
全国どこでも同じ料金で配達する「ユニバーサルサービス」は、採算ではなく公共性によって支えられてきました。
しかし現在、状況は大きく変わっています。
・電子メールの普及
・人口減少
・地方の過疎化
・物流コストの上昇
これらが重なり、郵便という制度は経済合理性と衝突し始めているのです。
つまり、日本郵便は今、
制度を守る会社なのか
ビジネスとして物流をやる会社なのか
この二つの役割を同時に背負わされています。
ここに最大の構造矛盾があります。
「コミュニティ配達」という未来
今回、興味深かったのは次の提案です。
郵便物をコミュニティ単位で配達し、各自が受け取りに行く形
これは海外では珍しくない方式です。
いわば集約型配送です。
物流的に言えばこれは、
ラストワンマイルの削減
です。
現在の郵便は、
配達員が
家 → 家 → 家 → 家
と回る構造です。
しかし人口減少社会ではこの方式は極めて非効率になります。
そこで、
拠点 → 集落 → 共同受取
という方式に変える。
これは物流視点では合理的です。
しかし問題はここです。
国民がそれを受け入れるのか。
日本の郵便は長年、
・毎日届く
・家まで届けてくれる
・料金は全国一律
という世界でも異例の手厚さを維持してきました。
サービス水準を下げる議論は、必ず政治問題になります。
つまりこれは、
物流問題ではなく社会契約の問題
なのです。
日本郵便が物流企業として動き始めた
一方で、懇談会では物流事業の拡大方針も強く語られました。
特に重要なのがこの部分です。
・BtoB物流の強化
・拠点開発
・国際物流
・ロジスティードとの連携
・JPロジスティクスの活用
つまり、日本郵便は今、
郵便の縮小を物流で補う
という戦略を明確にし始めています。
これは自然な流れです。
世界を見ても、
郵便会社の多くは物流企業へ転換しています。
例えば
・ドイツポスト → DHL
・オランダポスト → PostNL
・フランスポスト → La Poste
いずれも物流企業化しました。
日本郵便も同じ道を歩き始めています。
しかし最大の問題は「組織構造」
ただし、日本郵便には大きな壁があります。
それは
組織構造の重さ
です。
・巨大な郵便ネットワーク
・全国の郵便局
・ユニバーサルサービス義務
・政治との関係
この構造は、普通の物流企業とは根本的に違います。
例えばAmazonやヤマトは、
採算でネットワークを設計できます。
しかし日本郵便は、
採算に関係なくネットワークを維持しなければならない。
つまり、
物流会社として戦うには重すぎる構造
を抱えているのです。
本当の議論はまだ始まっていない
今回の懇談会で示されたのは、
・郵便減少
・物流拡大
・サービス簡素化の可能性
でした。
しかし、本当に必要な議論はもっと根本です。
それは
日本の郵便制度をどうするのか
です。
具体的には次の三つです。
① 郵便の配達頻度を減らす
② 集約配達を認める
③ 税金による維持を拡大する
このどれかを選ばなければ、制度は維持できません。
しかし日本ではこの議論がほとんど進んでいません。
郵便の未来は「物流」では決まらない
日本郵便の問題を物流問題として見る人は多いですが、私は少し違う見方をしています。
これは
物流問題ではなく国家インフラ問題
です。
郵便は、
・通信インフラ
・行政インフラ
・地域インフラ
として長年機能してきました。
だからこそ今問われているのは、
物流会社の経営ではなく
国家としてどこまで維持するのか
という判断です。
最後に
日本郵便は今、歴史的な分岐点に立っています。
郵便を守るのか。
物流会社になるのか。
しかし本当は、その二択ではありません。
本当に問われているのは、
日本社会は「郵便」という公共サービスをどこまで維持したいのか。
この問いに、まだ誰も答えていません。
そしてこの議論を避け続ける限り、
日本郵便の構造問題は解決しないでしょう。