物流業界では日々さまざまな表彰が行われています。
しかし今回の日本物流大賞は少し意味が違います。
なぜなら受賞案件を見ると、
「速く運んだ」
「たくさん運んだ」
ではなく、
「運び方そのものを変えた」
事例ばかりだからです。
そしてこれは偶然ではありません。
2024年問題以降の物流業界は、
- 人手不足
- 労働時間規制
- 燃料高騰
- 脱炭素
- 災害リスク
によって、
「運ぶ能力」
よりも
「物流構造を設計する能力」
が問われる時代へ移行しています。
今回、日本通運が受賞した5案件を見れば、
現在の物流業界がどこへ向かおうとしているのかが見えてきます。
■ モーダルシフト賞
空コンテナを利益に変えた発想
最も象徴的なのが、
北越コーポレーションとダイハツ工業を結んだ
「異業種ラウンドマッチング輸送」
です。
通常、
新潟から関西へ紙製品を運んだコンテナは、
帰りは空のまま戻ります。
物流業界ではこれを
空回送
と呼びます。
当然ながら、
- 売上ゼロ
- CO2発生
- 人件費発生
です。
つまり、
最も利益を削る物流
です。
今回の仕組みでは、
復路コンテナにダイハツの自動車を積載。
往復とも貨物を積むことに成功しました。
結果として、
- CO2年間130トン削減
- ドライバー労働時間2520時間削減
を実現しています。
ここで重要なのは、
コンテナを増やしたわけでも、
列車を増やしたわけでもないことです。
変えたのは、
「情報」
だけです。
物流改革の本質は、
設備投資ではなく、
余白を埋める設計にあります。
■ 働き方改革貢献賞
「誰でも働ける倉庫」は人手不足対策そのもの
物流業界では長年、
人手不足が叫ばれています。
しかし現実には、
働きたい人がいないのではありません。
働ける環境が不足している
のです。
日本通運は
WHILLとAGV・AMRを組み合わせ、
倉庫内移動の負担を大幅に削減しました。
結果として、
- 高齢者
- 身体的制約のある方
- 移動負担が大きい作業者
も活躍できる環境を整備しています。
物流業界では今後、
人口増加は期待できません。
つまり、
従来の
若くて体力のある人材だけを前提にした物流
は成立しなくなります。
これから必要なのは、
人を物流に合わせるのではなく
物流を人に合わせる設計
です。
今回の受賞はその象徴です。
■ 日本物流記者会賞
EVトラックは車両の話ではない
村田製作所とロームによる共同輸送。
表面的には
EVトラック活用事例です。
しかし本質はそこではありません。
本当に評価されるべきなのは、
競合同士が物流を共有したことです。
従来なら、
それぞれ別便でした。
しかし共同化によって、
- 積載率15%→60%
- トラック年間240台削減
- CO2排出量100%削減
を実現しました。
物流業界では今後、
EV導入より先に、
空気を運ぶ物流
をなくすことが重要です。
積載率改善は、
最大の脱炭素施策でもあります。
■ 特別賞
南海トラフ地震を前提にした物流へ
非常に興味深いのがBCPサービスです。
日本企業の多くは、
災害対策を
起きたら考える
で運営しています。
しかし南海トラフ地震クラスになると、
それでは間に合いません。
NXグループは、
国内港湾停止を前提に、
韓国・釜山を活用した代替輸送網を構築しました。
つまり、
災害後の復旧計画
ではなく、
災害発生時の代替物流設計
です。
これは今後、
荷主企業にとって極めて重要になります。
物流会社を選ぶ基準が、
運賃だけではなく、
「止まった時に何ができるか」
へ変わり始めています。
■ 奨励賞
冷蔵車が足りない問題への答え
冷凍・冷蔵輸送は今後さらに逼迫します。
- 冷食需要増
- EC拡大
- 生鮮品輸送増
が続くからです。
しかし冷蔵車は高価であり、
ドライバー不足も深刻です。
そこで開発されたのが
プロテクトBOXサーマル。
高断熱ボックスによって、
常温車両でも温度管理輸送を可能にする仕組みです。
物流業界では、
不足した設備を増やすより、
既存設備の用途を広げる
方が効果的な場合があります。
これも典型例です。
■ 実は全て同じ方向を向いている
今回の5案件。
一見すると別々です。
しかし構造的には全て同じです。
共通点は、
「新しいトラックを増やしていない」
ことです。
やっていることは、
- 空きを埋める
- 情報を繋ぐ
- 共同化する
- 自動化する
- 代替手段を作る
だけです。
つまり、
物流の能力を増やしたのではなく、
物流の無駄を減らした。
ここに2026年物流の本質があります。
■ 評価すべき点
日本通運が評価される理由は、
単なる輸送会社に留まっていないことです。
今回の受賞案件はすべて、
- 製造業
- 鉄道
- モビリティ企業
- 保険会社
- 海外拠点
を巻き込んでいます。
つまり、
「運送会社」
ではなく
「物流設計会社」
として機能している。
ここが強みです。
■ 一方で見落としてはいけないこと
ただし、
物流業界全体を見れば課題もあります。
今回受賞した事例は、
大企業同士だから成立した面もあります。
中小運送会社の現場では、
- 荷待ち
- 長時間拘束
- 多重下請け
- 原価割れ運賃
が依然として残っています。
つまり、
先進事例と現場実態には、
まだ大きな距離があります。
物流の未来像は見えてきました。
しかし、
その未来へ業界全体が到達できるかは別問題です。
■ 結論|物流の価値は「運ぶ」から「設計する」へ
今回の日本物流大賞で評価されたのは、
輸送能力ではありません。
物流を構造から変える発想でした。
- モーダルシフト
- 共同輸送
- 自動化
- BCP
- 温度管理技術
すべてに共通するのは、
「どう運ぶか」
ではなく、
「どう流すか」
です。
物流業界は今、
運送業から物流設計業へ変わり始めています。
そして今回の受賞案件群は、
その変化を最も分かりやすく示した事例だったのかもしれません。